列車に乗って揺られ

どこへ行くとも知れない

乗客は風景に無関心で

わたしの目的地はない

いつから乗っていて

いつまで乗っているのか

もう知る由もない

次の駅で降りようか

目的はないのだし

次の駅で降りずとも

予定もないのだが

ふとすると足元に

置き去りになっているものが目に付く

誰も手に取ろうとはしない

少し悩んで手に取ると

よく見れば汚れていて

たいした価値もない

誰かが捨て置いたのだろう

降りそびれてしまった

せっかく降りようとしたのに

ふと脇を見ると

あちらにも何やら置いてある

むう

向こうの方にも累々と

誰の忘れものか

これだけのものが置き去りとな

あやしいと思いつつ

ものをまさぐる

懐かしいものだ

これを捨てていったのか

欲しい

駅を過ぎ

乗客たちは降りてゆく

小さいものが大きいものが

捨て置かれ転がってる

誰も見ていない

手に取り手に取り手に入れる

まだまだあんなに

隣の車両にも先の車両にも綺麗なものが

こんなにも捨ててゆくなんて

誰も欲しがらないなんて

愚かな客ども

みんなわたしのものだ

どうして持ち帰る

これだけのものを抱えて

鞄に詰め込み服に押し込み脇に抱えても持ちきれない

次の駅で降ろそうか

間に合わない

ものだけ降ろしてもわたしが降りなければ

誰かに取られてしまう

奥にはまだまだ魅力的なものがあり

わたしはあれらを見定めなくては

手に付け手にして手の中へ

美しいものたち

すべてわたしのものだ

終点にて全部をいただこう

もう邪魔者もいない

輝けるものたち

これは幼い頃欲しがったもの

これはねだっても手に入らなかったもの

これはあの子だけが持っていたもの

これはこの世のどこにも在りはしないもの

これはこの世界のすべて



お客さんここで終点ですよ


これはわたしのてのひら

これはわたしのみぎあし

これはわたしのかおかたち

これはわたしのちちはは

これはわたしのいはい

これはわたしのいえ

これはわたしのいどのそこ