宮崎県で働いている医師・地域医療評論家のブログ

宮崎県で働いている医師・地域医療評論家のブログ

 働き始めて22年目の勤務医です。
 日々の仕事を真摯に努める以外にも,世の中に情報発信をするべきではないかと思うようになりました。
 その他、最近は公立病院の経営の問題を初めとするマネジメントの勉強の記録も兼ねてブログを書いています。  
 

総務省アドバイザーに登録されました――公立病院の経営でお困りの方へ

このたび、総務省の**「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」において、公営企業(病院事業)分野のアドバイザー**として登録いただきましたので、ご報告申し上げます。


この制度はどんな仕組みなのか

総務省が運営するこの事業は、経営課題を抱える公立病院や公営企業に対して、外部の専門家を無償で派遣できる制度です。

アドバイザー派遣にかかる費用(謝金・旅費)はすべて**地方公共団体金融機構(JFM)**が負担しますので、自治体や病院側に費用の負担は一切ありません。

派遣を希望する自治体が総務省に申請し、マッチングが成立する形で実施されます。


私が対応できる分野

今回、私が登録した取組分野は主に以下のとおりです。

  • 公立病院経営強化プランの策定・改定
  • 経営診断・コスト分析
  • 診療報酬の最適化・医業収益改善
  • 医師等の確保・働き方改革
  • 経営形態の見直し
  • 病床機能転換及び診療体制の一体的見直し
  • 地域医療提供体制の機能分化・連携強化

なぜこの分野でアドバイザーを志したのか

私はこれまで、宮崎県串間市にある串間市民病院に外科部長・副院長として通算約10年勤務してきました。

串間市は人口減少と高齢化が急速に進む過疎地域であり、串間市民病院はその地域で唯一の急性期病院です。医師不足・収益悪化・施設老朽化といった複合的な課題を抱えながら、それでも地域住民の命と健康を守り続けなければならない――そういった現場の最前線に長年身を置いてきました。

診療報酬の届出・施設基準の管理・経営データの分析といった事務的な実務も、医師自ら担ってきた経験があります。「医師の目線で経営を語れる」ことが、私の一番の強みだと考えています。

現在はあけぼの診療所(宮崎市田野町)およびマナビヤ在宅クリニック(宮崎市)で在宅医療にも携わっており、急性期から在宅・地域包括ケアまでの連続した視点も持ち合わせております。


こんな方はぜひご相談ください

  • 公立病院の経営改善に取り組みたいが、何から手をつければよいかわからない
  • 診療報酬の算定・施設基準の届出を整理したい
  • 医師の確保・定着に悩んでいる
  • 経営強化プランの策定・見直しを検討している

自治体の担当者様、病院の管理職の方、地域医療に関わる方など、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

制度の活用方法についても含めて、まずは情報交換から始められればと思っております。


引き続き、宮崎の地域医療の発展に少しでも貢献できるよう努めてまいります。 どうぞよろしくお願いいたします。

高屋 剛(たかや つよし) 医療法人サクラ会 あけぼの診療所 顧問 

「12億円」は本当に大げさだったのか

江藤敏治・前事業管理者の主張を、全国データから改めて検証する

前事業管理者兼院長だった江藤敏治先生が繰り返し述べていた、ある言葉があります。

「本来、病院に出すべきお金を毎年削ってきた。その総額が12億円だ」

 

自治体病院への繰入金は、国が一律に決めるものではありません。

自治体ごとに財政状況は異なります。人口規模、税収、借金、公共施設の維持費、福祉や教育に必要な予算も違います。

財政的に余裕のある自治体と、厳しい自治体とで、病院に出せる金額が同じになるはずはありません。

そのことは、私自身も理解していました。

ですから、「本来出すべきお金が12億円も削られてきた」という言葉には、多少の誇張が含まれているのではないか。病院側から見た一面的な主張ではないか。

当時の私は、そのように受け止めていました。

江藤先生の主張は、市役所側や周囲から、時に「荒唐無稽」とさえ評されていました。

しかし今回、実際の決算数値と全国の自治体病院のデータを使って検証してみたところ、私自身の認識を改めざるを得ない結果になりました。

全国の同規模病院と比べる

今回用いた指標は、「他会計繰入金対経常収益比率」です。

難しい名称ですが、簡単に言えば、

病院の年間収入に対して、市の一般会計などから、どの程度の割合のお金が繰り入れられているか

を示す数字です。

自治体病院は、一般の民間病院とは異なる役割を担っています。

救急医療、不採算医療、へき地医療、感染症対応など、採算性だけでは維持しにくい医療を地域のために提供しています。

そのため、診療報酬だけで病院を運営するのではなく、自治体の一般会計から負担金や補助金が繰り入れられる仕組みになっています。

今回の検証では、串間市民病院と同じ病床規模に当たる全国の自治体病院が、平均してどの程度の繰入金を受けているかを調べました。

そして、その全国平均の繰入率を、串間市民病院の各年度の経常収益に当てはめました。

計算方法は単純です。

串間市民病院の経常収益
× 同規模自治体病院の全国平均繰入率
= 全国平均並みであった場合の仮想的な繰入額

この金額と、串間市民病院が実際に受け取った収益勘定の繰入額との差を、年度ごとに計算しました。

平成30年度から令和5年度までの差は約13億9,000万円

その結果、平成30年度から令和5年度までの6年間で、全国平均相当の繰入額と実際の繰入額との差は、

13億9,042万9,000円

となりました。

約13億9,000万円です。

江藤先生が述べていた「12億円」と、非常に近い規模です。

もちろん、この二つの数字の計算方法が完全に同じであるとは限りません。

江藤先生が12億円を算出した際に、

  • 何年度から何年度までを対象としたのか

  • 総務省の繰出基準を使ったのか

  • 病院側が要求した金額との差を使ったのか

  • 全国平均との差を使ったのか

  • 資本勘定への繰入金を含めたのか

といった具体的な計算過程は、現時点では確認できていません。

したがって、今回の試算によって、江藤先生の「12億円」という計算式そのものが完全に再現されたわけではありません。

しかし、異なる方法で、公開された決算数値と全国平均を用いて計算した結果、同じ十数億円規模の差が現れました。

これは重い事実だと思います。

「荒唐無稽」とされた主張が、数字によって裏付けられた

在職当時、江藤先生の主張は、あまりにも金額が大きかったため、現実離れした話のように受け止められていました。

私自身も、少し大げさなのではないかと思っていた一人です。

しかし、今回の検証では、平成30年度から令和5年度までのわずか6年間だけでも、全国平均との差が約13億9,000万円に達しました。

江藤先生が対象としていた期間が、今回より長かった可能性もあります。

そう考えると、「累計12億円」という主張は、少なくとも金額の規模としては、決して荒唐無稽なものではありませんでした。

むしろ、公開データを積み上げていくと、その主張には相当な根拠があったことが分かります。

私自身にとっても、これは意外な結果でした。

病院の内部にいた人間でありながら、当時はその数字の大きさを十分に理解できていなかったのかもしれません。

自治体の財政事情を無視することはできない

一方で、全国平均より少なかったからといって、直ちに串間市の判断が違法だった、あるいは不当だったと断定することもできません。

串間市には串間市の財政事情があります。

人口減少、高齢化、税収の制約、道路や公共施設の維持、福祉、教育、防災など、限られた財源の中で多くの行政サービスを維持しなければなりません。

病院への繰入金を増やせば、その分、ほかの事業に使える財源が減る可能性もあります。

自治体病院への繰入額が、自治体そのものの財政力に左右されるのは事実です。

したがって、全国平均をそのまま「法律上支払うべき金額」とみなすことはできません。

今回の約13億9,000万円は、市の借金でも、病院への未払金でもありません。

あくまで、

全国の同規模自治体病院と同程度の割合で繰り入れていたと仮定した場合に生じる差額

です。

この点は、明確に区別する必要があります。

問題は「なぜ少なかったのか」である

重要なのは、全国平均より少なかったことだけではありません。

なぜ、その水準にとどまったのか。

その判断が、病院の経営や医療体制にどのような影響を与えたのか。

そこを検証する必要があります。

串間市民病院は、救急医療や不採算医療を担い、地域住民の生命と健康を守ってきました。

一方で、医師や看護師の確保、医療機器の更新、施設の老朽化対策、救急体制の維持には、多額の費用が必要です。

繰入金が全国平均より継続的に少なかったのであれば、その差は、

  • 医師や看護師の確保

  • 医療機器の購入・更新

  • 救急医療体制の強化

  • 施設の改修

  • 将来の建て替えに備えた資金

  • 経営危機に備える内部留保

などに影響した可能性があります。

もちろん、資金を増やせば、それだけで病院経営が改善するわけではありません。

病院側にも、診療収益の確保、人員配置の適正化、経費削減、経営管理の改善が必要です。

しかし、病院側の経営努力と、自治体が政策医療に必要な財政負担を行うことは、別々に検証されるべき問題です。

病院の経営が厳しくなったとき、原因をすべて「病院の努力不足」に求めるのは適切ではありません。

江藤先生の発言を、今こそ正面から検証すべきである

今回の試算によって、江藤先生の「12億円」という言葉の重みは、以前とは大きく変わりました。

当時は大げさだと思われ、時には荒唐無稽とまで評された主張が、公開データに基づく独立した検証によって、相当程度裏付けられたからです。

少なくとも、

「12億円など、根拠のない数字だった」

と片づけることは、もはやできません。

むしろ、確認すべきことは次の点です。

江藤先生は、どのような資料と計算方法によって12億円を算出したのか。

各年度の繰入額は、誰が、どのような方針で決めていたのか。

病院側は、どの程度の繰入れを求めていたのか。

市は、なぜその要求額を認めなかったのか。

普通交付税や特別交付税として国から措置された財源は、実際にどの程度病院へ繰り出されていたのか。

そして、その財政判断が、医師確保、救急医療、設備更新、病院経営にどのような影響を与えたのか。

これらを感情論ではなく、資料と数字に基づいて検証する必要があります。

市民病院の問題を、数字に基づいて考える

串間市民病院の将来を考えるとき、誰か一人を悪者にするだけでは解決しません。

市役所にも財政上の制約があります。

病院にも経営上の課題があります。

しかし、制約があることと、過去の判断を検証しなくてよいことは同じではありません。

病院に必要だった財政支援はどの程度だったのか。

実際にはどの程度の支援が行われたのか。

その差が病院に何をもたらしたのか。

これを市民に分かる形で示すことが必要です。

江藤先生の「12億円」という言葉は、当時は大げさに聞こえました。

しかし、数字を一つずつ確認した今、その言葉は、串間市民病院の過去の財政運営を問い直す重要な警告だったのではないかと感じています。


※本稿の約13億9,000万円は、平成30年度から令和5年度までについて、全国の同規模自治体病院における「他会計繰入金対経常収益比率」を串間市民病院の経常収益に当てはめ、実際の収益勘定繰入額との差を計算した反実仮想上の試算です。法令上の繰出不足額、市の未払金、病院に対する債務を示すものではありません。また、江藤敏治氏の「12億円」という数字と、今回の試算の計算方法が同一であることを示すものではありません。


現在、串間市民病院では、医師体制の大幅な縮小を背景として、時間外診療の受け入れ制限が検討されています。地域住民にとって、救急医療体制の変化は生活に直結する重大な問題です。本来、このような事態に至った経緯については、行政が十分に説明責任を果たす必要があります。
特に今回の問題を考える上で、見過ごすことができないのが、市による病院経営体制の人事判断と、その後の医師確保策の実行状況です。

■院長交代に伴う行政の約束
串間市では、前事業管理者兼前院長であった江藤敏治医師の任期を更新せず、事実上の体制変更を行いました。この人事は、自治体病院の経営方針を大きく転換する判断であり、地域医療に与える影響は極めて大きいものです。
その際、市長部局は「新しい体制を構築する」「院長職を含め常勤医師を複数招聘する」といった趣旨の方針を示していました。仮にこの方針が公に示されていたのであれば、それは単なる方針ではなく、地域医療を維持するための行政としての責任ある約束だったと言えます。

■結果として生じた医師体制の縮小
しかし現時点では、その医師招聘が実現したとは言い難い状況が生じています。結果として常勤医師数は大幅に減少し、救急医療を含む病院機能の維持そのものが困難な局面に入っています。
自治体病院における院長や事業管理者の交代は、単なる人事異動ではありません。地域医療体制そのものを左右する重大な政策判断です。もし体制変更を行うのであれば、それと同時に医師確保策を具体的かつ実効的に進める責任が行政側にはあります。
医療は高度な専門職によって支えられており、医師の確保は短期間で容易に実現できるものではありません。だからこそ、経営トップの交代を行う際には、綿密な医師確保戦略と実行力が不可欠です。

■時間外診療制限は「医療側の問題」だけなのか
現在議論されている時間外診療制限について、「医師不足だから仕方がない」という単純な説明だけでは、問題の本質は見えません。
医師不足という結果が生じた背景には、病院経営の意思決定や行政の医師確保政策が存在します。特に、トップ人事を強行した行政が、その後の体制構築を実現できなかったのであれば、その結果について説明責任を負うのは当然です。
医療現場では、常勤医師が入院患者の継続診療や医療安全管理など、極めて重い公益責任を担っています。医師数が減少すれば、その責任は少数の医師に集中します。その結果として時間外診療の制限が検討される状況は、単なる現場判断ではなく、医療体制全体の持続可能性の問題です。

■行政の説明責任と再建責任
自治体が設置主体である公立病院では、医療体制の変化は行政の政策判断と密接に関係しています。そのため、今回のように救急体制の見直しが必要となった場合、市民が最も求めているのは、「なぜこの状況に至ったのか」という経緯の説明と、「今後どう再建するのか」という具体的な道筋です。
もし、院長交代時に掲げた医師招聘方針が十分に実現していないのであれば、その原因の検証と再発防止策の提示は不可欠です。地域医療は一度弱体化すると、再建には長い年月と多大な財政負担を要します。

■地域医療は行政と医療者の共同責任である
医療提供は医師だけで成り立つものではありません。医療政策、財政支援、医師確保戦略など、行政の関与が不可欠です。特に公立病院では、行政の判断が医療体制に直接影響を与えます。
時間外診療制限という結果だけを医療現場の問題として捉えるのではなく、その背景にある行政判断の検証を行うことが、地域医療を守る第一歩になるはずです。
地域住民にとって重要なのは、責任の所在を明確にし、同じ問題を繰り返さないことです。そのためにも、市には丁寧で透明性の高い説明と、実効性のある医療体制再建策の提示が強く求められています。