3月に読んだ小説をランキング形式で紹介していきまーす。
注1)偉そうにレーダーチャート評価なんてしてますがあくまで素人の所感です。なんか本読みたいけどどれがいいかわかんないってときに参考になれば嬉しいです。
注2)ランキングもあくまで僕の好みです。
注3)本編の面白さがなくなってしまうような重大なネタバレは避けますが、前情報を一切入れたくないという人はスルー推奨です。
注4)ブログ主は現在エヴァと攻殻の影響で大絶賛SFブーム中です。
6位:『月は無慈悲な夜の女王』 ロバート・A・ハインライン
日本では『夏への扉』で有名なハインラインだけど、母国アメリカではこの本が代表作として一番人気。
理由はまあ読んだらわかると思うけど、"自由"とか"独立"とか"闘争"とかいうアメリカ人大好きな思想の詰め合わせ。
地球の植民地となっている月に住む人間たちが、クーデターやらミサイル(投石)攻撃で地球から独立するまでの物語。
ただその革命の中心が人間ではなくコンピューター"マイク"で、常に完璧な計算と情報統制によって月の人々を先導していくところがおもしろいところ。
"宇宙船もミサイルも持たぬ月世界人が強大な地球に立ち向かう"というのが宣伝文句になっているけど、正直このマイクくんがチートすぎてむしろ地球側がノーチャンスにすら思えてしまった。
700ページ弱とかなりの文量で圧倒されるけど、そこまで読みづらいわけではない。ただ日本語訳にちょっと癖があって引っかかるところはいくらかあった。
最初に書いた通りアメリカで大人気なのはよくわかるし、逆に戦争なんてやってもいいこと1つもないっていう教育方針の敗戦国・日本ではウケないのもよくわかる。
ところで、月世界人と地球人との関係性の節々に『進撃の巨人』のパラディ島勢力と壁外人類が重なって見えたのは自分の気のせいだろうか。
そういえば進撃には"何かを変えることができるのは何かを捨てることができる人"といういわゆる"ノーフリーランチ定理"のような思想が登場したし、ひょっとすると諌山先生はこの本から多少の影響を受けているのかもしれない。
検索してもこの二つの作品を結びつけて考察している人は発見できなかったので、自分の考えすぎかもしれないが。。。
5位: 『旅のラゴス』 筒井康隆
初・筒井康隆作品。
筒井康隆といえば『パプリカ』みたいな奇天烈で抽象的な作風のイメージが強いけど、これは純粋な旅行記といった感じでとても読みやすかった。
文明の後退した世界を一人で旅し続けるラゴス。
原始的である一方、空間転移や壁抜けなど特殊能力を持つ人々ととの出会いと別れが短編集のように紡がれていく。
『少女終末旅行』のようなディストピア感もありつつ、『キノの旅』のような暖かさもある。
その中にも星新一を思わせるような奇妙な力を持つ人たちがいて、SF小説としての魅力も満点。
長編小説としての盛り上がりにはやや欠けるが、秋の夜長に読みたいような、そんな一冊。
4位: 『華氏451度』 レイ・ブラッドベリ
"本=おぞましいもの"とされ、隠し持っている人はその本を家ごと焼かれるというディストピア世界。
主人公も本を焼くことを生業とする"昇火士"だったが、少女クラリスとの出会いをきっかけに本に興味を持ち始める。
元来、ディストピア小説というのは堅苦しく鬱々とした自問自答になりがちなものだけど、ブラッドベリは詩人でもあるということで爽やかで幻想的な語り口が特徴的。
とても読みやすい&いい気分で読み進めることができた。
その一方で、長編小説としては少し膨らませきれていない気もしてしまった。
主人公が老人フェーバーとともに昇火士たちに打ち勝っていくのかと思いきや、監視の目のない田舎へ逃げて同じように政府から追放された人々と邂逅。
そこで物語は終局に向かう。
最終的には外国からの空爆というデウスエクスマキナ(という言い方は正しくないかも)的な結末を迎えてしまうのは、せっかくの世界観設定や魅力的な登場人物を投げ出してしまったような感じがして残念。
国を管理している政府についてあまり掘り下げていない以上、ここから"革命"を書くのには無理があるし、なにより『月は無慈悲な〜』くらいの大長編になってしまうだろうから難しかったのかな。
3位: 『しあわせの理由』 グレッグ・イーガン
現代最強のハードSF作家として知られるグレッグ・イーガン。
その入り口として短編集『しあわせの理由』にチャレンジした。
噂通り『闇の中へ』『ボーダー・ガード』はゴリゴリの物理SFで、前者は相対論、後者は量子論の知識なしではなかなか理解できないのでは。
表題にもなっている『しあわせの理由』は『アルジャーノンに花束を』感もありつつ、より暖かみのない結末。
個人的なイチオシは、『移送夢』。文量は収録作品の中でも少ない方だが、世にも奇妙な物語的な不気味さを孕んだ一作だった。
いわゆる『攻殻機動隊』の義体化のような概念の中で生じる、移送夢という現象。
義体に転移したのは本人の魂か、はたまた魂は死にそのデータとしてのコピーだけがペーストされているのか。
普通のフィクションを虚像とするなら、こちらは圧倒的な知識と計算に基づいた実像。
そこに哲学的な思想も入り込んでいる難解さが、イーガン節なのだろう。
その入り口を通過することができたので、『時間封鎖』や『ディアスポラ』といった名作長編に挑戦していきたい。
2位: 『All You Need is Kill』 桜坂洋
ライトノベルとはあまり縁がなかったが、ループモノの傑作として非常に評価されていたので読了。
ラノベらしい読みやすいエンターテイメントで、主人公が戦場で100回以上の死を繰り返して強くなっていくところは激アツ。
そして何よりヒロインのリタがかわいい。
戦場で敵をバッサバッサ切り倒す最強系ヒロインだが、ギャップとしてのかわいいシーンもしっかり用意されていて大満足(梅干しのところ)。
特に主人公にループを繰り返していたことを打ち明けられた場面は何度読んでも飽き足りない。実際に何度も繰り返されるわけなんだけど。
ループが起きる理屈や最後にそこから抜け出すときの設定の説明がかなりアバウトだったのはやや残念。
主人公サイドが深く理解できる立ち位置じゃないから仕方ないのかもしれないが、結末の展開的に"そうしなければいけない根拠"は明示して欲しかった。
1位: 『動物農場』 ジョージ・オーウェル
『1984年』のジョージ・オーウェルのもう一つの代表作。
ディストピア小説の古典である前作に対して、こちらは皮肉と遊び心たっぷりの絵本のような感じ。
農場から人間を追い出した動物たちが戒律を作り、労働環境を整え、一つの"共和国"を作るというアニマル版トイストーリー …
かと思いきや、スターリン政権下のソ連を痛烈に批判した、ビゴーの風刺画の小説版と言えば伝わりやすいか。
農場の動物の中ではブタが一番賢くて、知能の弱い動物たちを見事に出し抜いて独裁政権を築いていく。
リーダーのナポレオンと参謀のスクウィーラーがとにかく憎たらしくて、懲らしめられるのを期待してページがどんどん進んだ。
久々の"一晩で読み終えた小説"。
ところで、自分も愛してやまない日本のSF小説の大傑作『新世界より』の悪玉バケネズミに"スクィーラ"というのがいるが、これはこの作品のスクウィーラーからとっているのだろうか?
ずる賢くて抜け目なくて、嘘つき。
性格的にドンピシャリなので、そうなんじゃないかと思う。