今年に入って1月・2月に読んだ小説をランキング形式で紹介していきまーす。
注1)偉そうにレーダーチャート評価なんてしてますがあくまで素人の所感です。なんか本読みたいけどどれがいいかわかんないってときに参考になれば嬉しいです。
注2)ランキングもあくまで僕の好みです。
注3)本編の面白さがなくなってしまうような重大なネタバレは避けますが、前情報を一切入れたくないという人はスルー推奨です。
注4)ブログ主は現在エヴァと攻殻の影響で大絶賛SFブーム中です。
7位:『夏への扉』 ロバート・A・ハインライン
ハインラインの作品の中だとそこまで評価が高いわけではないけどなぜか日本ではやたら人気らしい。SF小説おすすめランキングで検索してみてもほとんどのサイトで上位を獲得してますね。
おそらくこの小説の他と違うところは、『タイムマシン』と『冷凍睡眠』の両方が出てくるところでしょう。
冷凍睡眠はこの世界では既に当然の技術として確立されていて、主人公がそれを駆使して不自由なタイムマシンを最大限に活かすのが面白いところ。
タイムパラドックスモノの”おやくそく”もありつつ(というかこれがオリジンなのか?)、主人公と一緒にハラハラできる良い小説でした。
欲を言えば、タイムマシンを使って以降があまりにも主人公の計画通りにサクサク進みすぎてしまった感があったかな。
「バック・トゥ・ザフューチャー」みたいに、何か思いもよらぬことが起きてどんでん返しがあったりするともっと盛り上がったと思う。これは他の人の感想ブログにもだいたい書かれてますね。
まあでも、古典SFかつタイムマシン黎明期と考えるとこのくらいが限界か。
むしろこれをオリジンとして、後々たくさんのSF作家が傑作タイムパラドックスを生み出していったんだよね。
6位:『一九八四年』 ジョージ・オーウェル
こちらもSF小説おすすめランキング常連ですね。
というかディストピア小説のオリジンと言いましょうか。
年代的には『すばらしい新世界』の方が前なんだけど、あっちはユートピアの中のディストピアを描いていたのに対してこっちは完全な管理社会ディストピア。
ストーリーが凝ってるとかキャラクターに魅力があるというわけではないけど、とにかくこれ以降のディストピア小説の世界観をこの一冊が構築したという点で評価されてるんだろうな。
”二重思考”の原理は特に面白かった。
これを読んだ後に、最近のSF小説なるものを読み返してみるとどれもこれもこの一九八四年に多大な影響を受けていることに気づく。
SFを読もう!と思ったならぜひこの本から読んでほしいものだけど、小説としてめちゃくちゃ面白いってわけじゃないから難しい。
入門として読むには・・・だけど、読み切ったら絶対そのあとの読書の楽しさが何倍にもなる。そんな一冊。
個人的に、主人公ウィンストンと女性の趣味が同じで好感が持てた。
以下、一番好きなセリフを引用
”純潔なぞ大嫌いだ。善良さなどまっぴら御免だ。どんな美徳もどこにも存在してほしくない。一人残らず骨の髄まで腐っててほしいんだ”
うんうん。わかるよ、ウィンストン。
クソ女ほど魅力的だよね。
君とは良い酒が飲めそうだ。
5位:『時計じかけのオレンジ』 アントニイ・バージェス
一言で言えば、”R-18小説”と言ったところだろうか。
主人公アレックスは喧嘩、盗み、レイプ、殺し、なんでもアリの筋金入りのクソ野郎。
”ナッドサッド”という奇妙な言葉で記述された文章でハラショーに最低な犯罪が次から次へと語られる。
そんな最低なアレックスが、ある日仲間に裏切られて捕まって国家の厚生プログラムの餌食になる。
ここからのレトリックが素晴らしい。
ベードーヴェンの第九とともに幼女がレイプされ、ユダヤ人が虐殺される。
エヴァや相棒で多々ある ”残虐なシーン×クラシック=エモ” の法則のオリジンはこれか。
おそらく原作の小説よりも映画版の方が有名だけど、作者の文章力がエグすぎて普通に映画を見ているような感覚になれた。
4位:『ハーモニー』 伊藤計劃
『虐殺器官』であまりにも有名な伊藤計劃。
でも個人的にはこっちの方が好きだった。
虐殺器官は思想の議論がとにかく読みづらかったんだよなあ。自分の読書力が低いせいなんだろうけど。
『時計じかけのオレンジ』がナッドサット言葉なら、『ハーモニー』はETML。
主人公の感情の部分を全てHTMLタグのような文字列で表記する、斬新すぎる表現技法。
だけど読みづらさは一切なくて、むしろ普通の小説以上に気持ちが理系的に理解できてサクサク読めた。
随所に『一九八四年』のオマージュは見られるけど、おそらくジャンルとしては”ユートピアに見せかけたディストピア”モノで『すばらしい新世界』からの影響を色濃く受けてそう。
野人ジョンを冷酷な悪のカリスマへと昇華させたのが御冷ミァハなんだろう。
ETML表記も単なるイロモノじゃなくて、最後の最後に恐ろしい意味を持っていたことが明らかになる。
海外古典SFっぽさを漂わせつつ、ジャパニーズ・エンタメとしての面白さをしっかり確立している至高の一冊。
3位:『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー
『一九八四年』と並ぶ古典SF。
の、割には前者ほど古典感がなく、くだけた文章でとても読みやすかった。
主人公バーナードが自意識だけが膨れ上がったいわゆる”逆張りキッズ”で、好きになれるキャラ像ではないけど身近な存在に感じれるのもその原因か。
受精卵から胎児まで、子供を研究所のフラスコの中で管理・育成するようになった世界では”父”や”母”という概念が消失し、下ネタ同然の扱いになっている。
ただし性行為という存在が消えるわけではなく、むしろ性行為=子供を作る行為 でなくなったことで人々は気軽に誰とでもバカスカ寝るようになるというのが面白かった。
”新世界”は要するに”異常な世界”なんだけど、当然そこの住人はそのおかしさに気づかない。
そこへアウトサイダーとして現れるのが文明から置き去りにされた野人ジョンであり、最初はその便利な暮らしを楽しんでいた彼も徐々に精神を病んでいく。
エピローグの狂気的な盛り上がりからの静かで不気味なオチは韓国映画『パラサイト』のようでもあり、古谷実のサイコ漫画『ヒミズ』のようでもある。
特に最後の1文はただ状況を説明してるだけなのにぶわっと鳥肌が立つような怖さと切なさがあって、なんとも言えない読了感が残った。
2位:『日本沈没』 小松左京
言わずと知れた日本のハードSF。
むしろ日本でこのジャンルを開拓してるのは後にも先にも小松左京くらいなんじゃなかろうか。
感想としては、とにかく知識と情報量の暴力。
上下巻2冊に教科書何冊分の情報が書き込まれているのやら。
同作者の『復活の日』は1冊にまとめるためにかなり急ピッチで物語が進んだせいでダイジェスト感が拭えなかったけど、こっちはたっぷり時間をかけて過程が描かれてるから本当にリアルタイムで日本が沈んでいくような没入感が得られた。
読んでる途中、部屋の中で何か小さな物音がするだけで地震かと勘違いするくらい真に迫る恐怖があって、これは現実と照らし合わせた膨大な情報に支えられているものなんだろう。
小松左京はこれを書き上げるのに9年を要したらしいけど、それだけの期間同じ作品のことばっか考えてるのってどんな気分なんだろう。
もう途中でわけわかんなくなって頭おかしくなりそう。
最後が”第一部 完”で締めくくられていてなんだろうと思ったら、実はこれで完結の予定じゃなかったらしい。
日本が沈むまでが第一部、この後『日本漂流』なる第二部が展開される予定だったとか。
まあ確かに日本人が本当に大変なのはこれからで、日本から脱出して難民として世界中に散らばって、そこでどんな苦難が待ち受けているかってことだよね。
難民の難しさは攻殻2期でありありと描かれてるし。
名作と知られているだけあって、作者のとんでもない筆力に殴られる感覚を楽しめる作品。
1位:『アルジャーノンに花束を』 ダニエル・キイス
これは本当にいい本だった。
日本でも何度かドラマ化されてるおかげでタイトルは聞いたことがあったけど、SFにジャンル分けされる作品だとは知らなかった。
主人公は発達障害の男性。
ある日、特殊な手術によって天才的な頭脳を手に入れた主人公は、常人の何倍ものスピードで知識を増やしていく。
いつしか彼の頭脳は周囲の人間を遥かに超えたものとなり、これまで彼に障害者として優しく接していた人たちと衝突するようになる。
目を見張るのは、物語が主人公の日記という形式をとって進んでいくことから、知識がどんどん増えていく過程が文字として視覚化されていくところ。
最初は句読点すらない平仮名の羅列で読みづらいことこの上なかった文章に、手術後からどんどん漢字が増えていって最終的には学術論文みたいなレベルになる。
"物語の登場人物に頭脳が追い抜かれる感覚"を体感できるのはおそらくこの本くらいなのでは。
いじめはあったが、障害者のままであった方が仲間は多かった。
賢くなって馬鹿にされることはなくなったが、仲間たちは嫉妬と劣等感から離れていく。
彼は賢くなんかならない方が幸せだったのか。
うーん、泣ける。
ネタバレ回避のために詳しくは書かないけど終盤の展開は本当に悲劇的。
主人公の体験、気持ち、人との繋がり。
全てが最後の1文、そしてタイトル『アルジャーノンに花束を』に帰結するところも鮮やかで、なかなか本を閉じることもできなかった。
文句の付け所のない大傑作。
後世に語り継がれて欲しい一冊。
閑話休題。
というわけで、1月・2月に読んだ本はこんな感じでした。
興味を惹かれたものがあればぜひ本屋で手に取ってみてくださいな
またこんど!