実に二ヶ月弱ぶりのブログ更新。
1月2月は色々忙しかったので仕方ない。
さて、忙しいながらも息抜きは必要、ということで趣味の読書とアニメ鑑賞をちびちびと続けていたわけなんだけど、去年エヴァを見てハマって、路線的に次はこれだろと思って見たのが【攻殻機動隊】。
ハードボイルドSF作品としてアニメに興味がない人でも聞いたことくらいはあるんじゃなかろうか。
最近で言えばアメリカで実写版【ゴースト・イン・ザ・シェル】が公開されたり、Netflixで新シーズンの【攻殻機動隊 SAC_2045】が配信されたり。
そっちから見ようかとも思ったんだけど、こういうのはきちんと世界観を理解した上で楽しみたいよね。
攻殻はアニメだけでも何本もの作品に分岐してて、ぶっちゃけどれから見ればいいかとてもわかりづらい。
一番有名かつ最初に作られたのは押井守監督の映画2本だけど、色々調べたところどうやらその後にできたテレビシリーズの【S.A.C.】から手をつけるのが一番理解しやすいらしい。
と言ってもこのテレビシリーズも1期と2期それぞれ2クール、3期が2時間弱の長編で1本と、まあそう簡単に消費できる量じゃない。
長かったけど、今年は外出しない年末年始ということでじっくり見させていただきました。
というわけで、ざっくりと感想を書いていきたいと思います。
あ、ネタバレとかは気にせず書くのでこれから見ようという人は注意。
でも個人的に攻殻はネタバレ云々よりそこに至るまでの駆け引きとガンアクションを楽しむタイプの作品だと思うので、むしろ多少の前提知識を入れた上で見た方がいいのではと思う。
はい、まずは第1期。
放送は2002年。
自分がまだ小学校にも上がってない頃!と驚くけど、よく考えたらこの年代がまさに深夜アニメ黄金期だったのかもしれない。
1997年にエヴァが深夜帯で再放送されて社会現象化して、深夜アニメという枠ができて5年。
ちょうどその土壌が出来上がってきた頃だったからこそ、萌えキャラもイケメンもいないコテコテの社会派アニメが花開いたのかもね。
今、なんのネームバリューもなしに新作でこれだけの超大作を作るのは大人の事情で難しいのかも。
設定としては、世界中のほとんどの人間が『電脳化』をしている近未来。
この電脳化というのは、シンプルに脳にコンピューターを埋め込む程度のものだったり、全身を人体に見立てた機械(義体)にした上で精神(ゴースト)をそこにインストールする完全な”肉体からの解放”だったり。でも食事も性交渉もできるらしい。不思議。
主人公の草薙素子は後者で、身体をミサイルで吹っ飛ばされようとアームスーツでギタギタにされようとホイホイと義体を交換して蘇る不死身にして最強のサイボーグ。
あまりに強すぎて、攻殻を見た後だと田中敦子さんが演じるキャラクターは全部強そうに感じてしまうほど。最近で言えば呪術廻戦の自然大好きな特級呪霊とかだろうか。
この世界ではアンドロイドの技術も発達してて、草薙素子が属する『公安9課』のメインメンバー以外はみんなゴーストのないアンドロイド。
だから全身サイボーグの草薙とアンドロイドの境界線はとても曖昧で、特にタチコマっていう見た目ゴリゴリのロボなのに人間みたいな思考を持つ存在も加わるといよいよ「この世界における人間って何?」と思ってしまう。
まあ、これが攻殻のメインテーマなんだけど。
1期はこの電脳化を中心とした世界で起こりうる犯罪を1話完結で見せつつ、徐々に見えてくる『笑い男事件』の真相に迫っていく重厚感たっぷりの刑事モノ。
↑笑い男事件の発端となったワンシーン
個人的には、恐らくS.A.C.シリーズの中でこの笑い男事件が一番難解なんじゃないかと思う。
発端は朝のニュース番組の中で突如としてお茶の間に流された恐喝事件。
犯人は天才的な腕を持ったハッカーで、周囲のカメラ映像だけでなく人々の電脳までハックしていた。それにより誰一人として犯人の顔を見ることができず、白昼堂々の事件であるにも関わらず犯人は逮捕されなかった。
笑い男事件と名付けられたこの一件は政治戦略やらマネーゲームやら模倣犯やら考察班やらを巻き込んで、日本史上類を見ない巨大な未解決事件へと成長していく。
この「何かの事件をきっかけに、それに感化された者やそれを利用したい者が続々と現れて一つの巨大な個のように振る舞うこと」こそがスタンドアローンコンプレックス現象で、テレビシリーズの副題『S.A.C.』はこれから来ている。
これだけでもややこしいのに、事件を捜査する公安9課サイドでは笑い男の元ネタであるサリンジャーの思想の話まで関わってきて、とりあえず1回見ただけで完璧に理解できる人ってそうそういないんじゃないかと思う。
特に最終話の草薙と笑い男の対話は荒巻課長に「外部記憶装置なくしては理解不可能」と言わしめるほどに難解で、それこそが攻殻の魅力なんだろうけどそれにしても大変だった。イエス。
それでもクライマックスの9課襲撃は手に汗握ったし、笑い男とは関係ない事件にも一つ一つに現実社会への皮肉と警鐘が込められていて十分に楽しめた。
強いて言うなら、笑い男の正体であり物語の鍵を握る人物が結局最後の最後まで何もせずに終わってしまったのが残念だった。
終盤は政府と9課の殴り合いになっちゃって、ここに笑い男が第三勢力として参加してくれたらもうちょっと盛り上がったのかなと思った。
さて、次は第2期。自分はこのシリーズが一番すき。
1期の刑事ドラマから、より政治色が強くなった印象。
草薙、バトー、トグサ以外のメンバーにもちょっとずつ光が当たってより9課に愛着が湧いた。サイトーさんかっこいい。
というかまずこのジャケットがいいよね。
最初にも書いたけど、萌えキャラもイケメンもいないのにこんなにカッコいい絵になるもんですか。
大人の渋い魅力って感じ、最高っす。
2期は『個別の11人事件』っていう、おそらく三島由紀夫を題材にした右翼(この解釈が正しいかは微妙)的な思想に駆られた集団のテロをきっかけに難民問題を描く、っていうテイスト。
難民っていうのが文字通り、いかに難しい存在なのかっていうのをありありと見せつけられるストーリー展開で、最終的には「結局、日本って親米と親中どっちがいいの?」っていう今まさに現実世界でも直面してる問題に帰結する。最終話ではこの問題に首相が明確かつ奇想天外なアンサーを提示して終わるんだけど、これはちゃんとアニメを見た上でうーんと唸らされてほしいので詳しくは書きません。
個別の11人事件を影で手引きし、難民を日本から消してしまおうと画策するゴーダ。
お飾りを言われながらも心の内に揺るがない信念を掲げる茅葺総理。
難民のカリスマ的指導者であり、草薙と悲しい因縁を持つクゼ。
そして9課。
カオスな様相すら伺わせる4つ巴の戦いが綺麗にまとまって、日本の未来と難民問題に一つの指針が示されるのは天才的だなあと感じた。
それから最後の「僕らはみんな生きている」のシーンは涙なしでは見れませんね。
最後に、3期であり1つの長編アニメーションとして製作された【Solid State Society】
こちらが扱うのは少子高齢化問題。
テレビシリーズじゃなくて2時間弱で完結の映画みたいな存在なので薄くまとまってる印象だけど、割とエグいとこ突いてるなという印象。
特に貴腐老人のあたりは、、、なかなか、、、、
生命維持装置に繋がれたまま、家の中で一人で萎れていく老人をワインの「貴腐ブドウ」になぞらえて貴腐老人と呼ぶ。
ネタバレを書いてしまうと、虐待を受けている疑いのある子供たちを政府が誘拐し、電脳化して記憶を消した上で貴腐老人の元に送り込み、戸籍を書き換えて政府の運営する研究?に従事させる。このシステムがSolid State=素子。
いや、エグすぎか???
9課がこの事件を解決したとしても、子供たちは虐待をする親の元に返されるだけ。もしかしたら大人になることなく死んでしまうかもしれない。それならSolid Stateで有効活用したほうが日本のためなんじゃないの?
っていうジレンマ。
1期も2期もそれなりに勧善懲悪でスッキリ終わったのに対して、かなり後味の悪い終わり方だった。
と、ざっくりと全編通して感想を書いてみたけど、ブログのタイトルにもしてある通り、
「結局、電脳化社会って実現するの?」
っていう疑問が生まれた。
そりゃ、電脳化したらスマホが常に身体に内臓されてるようなもんだから便利にはなるだろうし、義体化まですれば基本的な病気からは解放される上に怪我をしてもへっちゃら。
特に幼少期のクゼや草薙みたいに事故や病気で身体が動かなくなってしまった人にとって、
あるいはバトーやサイトーみたいにバリバリ戦場に赴いて戦う人にとって夢のような技術であることには間違いないんだろうけど。
それにしても、一般的な生活を送る上ではリスクの方がはるかに大きい気がするんだよな。
まず、1期では『電脳硬化症』という電脳化した故にかかってしまう病気が出てきた。この電脳硬化症を原因に笑い男事件は複雑化していくんだけど、まずやっぱり技術としてしっかり確立されて、安全性が保証されない限りは怖いよねえ。身体を、脳みそを直接いじるんだもの。
さらに笑い男事件では電脳をハックされたために見えるはずの「顔」が見えなくなったり、個別の11人事件では電脳がウイルスに感染することで極右思想に染められてしまったり、Solid Stateに至っては親元から離され記憶を改ざんされて国に無理やり働かされてしまったり。
要するにコンピューターがハッキングされたりウイルス感染したりして挙動がおかしくなっちゃうのが、自分の脳に起こるわけだからね。
それこそ政府が腕のいいハッカーを雇って国民を操ったり、愉快犯が自分の手を汚さずして大量殺人を起こしたりできちゃうわけじゃないですか。
ちゃんとしたウイルス対策ソフトとかハッキング防止策があるならいいんだけど、政府がらみのゴーダ・Solid Stateはともかく笑い男事件に関しては最初はごく普通の一般人が起こした事件なわけだし。
いやー、やっぱリスキーすぎるんだよなあ。
そんな危なっかしいシステムを積極的に開発して提供したがる企業ってあるんだろうか。
仮に電脳化社会が訪れたとしても、自分はちょっとためらってしまうと思う。
むしろそんな時代がやってきたときに、この攻殻機動隊シリーズが再注目されてある種の教科書的存在になるのかもしれないな、と夢を見つつ。
次は押井守版の劇場版【攻殻機動隊】を見てみようと思います。