リレーマラソン大会当日の朝、S井から衝撃のLINEが届いた。
「風邪っぽいんで休みます」
「おぃぃぃいいい!!」
「嘘だと言ってよ、Sィィ・・・!!」
予定外の二人体制で臨むことになった。

会場は淀川河川敷の野球グラウンド。1周1.5kmのコース。地獄のループが待っていた。

「最初、俺行きます!」T田がタスキを握りしめる。
「T田、震えているのか?」
「違うよ、つる。武者震いだよ!」
T田の顔には不自然な笑みが浮かんでいた。

号令と共に選手が一斉にスタート。各チーム、エースを投入しているだけあって速い。
T田はキョロキョロと周りを確認しながら走る。
「まずいな・・。自分のペースを崩されてる・・」
序盤の高速ペースから一転、中盤では亀のごとく鈍重なペースに。
タスキを渡す頃にはほぼ速度ゼロになっていた。

(アキレスと亀のアキレスじゃねぇんだから・・)
俺は心の中でツッコミを入れながらスタートした。まさか数学のパラドックスを考えながら走ることになるとは。

2周目も周りのランナーは早かった。
全力で走るのだが、女に軽々と抜かれる。
(抜くのはアソコだけにしてくれ!)
心の中で叫ぶも、現実は無常だった。結局抜いてくれる女はマラソンしかいないのだ。

3周目以降、俺たちは休む間もなく走り続けた。
(Sィィ・・・お前仮病だっただろ・・)
S井への呪詛が走るリズムを刻む。

14周目。ついにラスト一周。
俺がアンカーを務める。
目の前を走る男性の後ろ姿に見覚えが。
チャンネル登録者数100万人越えの大手理系YouTuber。
俺はスタート前からその存在に気づいていたが、あえて知らんぷりをした奴だ。
(媚びたくなかったから!)

俺は加速した。疲労困憊のはずが、なぜか体が軽い。
こんな時、勝負を分けるのは渇望。
(憧れるのはやめましょう・・てなぁ!)

ラスト100m地点。奇跡が起きた。
俺はYouTuberを抜き去った。
相手のスパートの気配を感じたが、必死に逃げ切った。

「つるさん・・」
T田は泣きそうな顔をしていた。
「これで帰れる・・・!」
つるがYouTuberに勝ったからではない。この苦行から解放されることが嬉しかったのだ。
「バカやろう・・ちったぁ称えろや・・・」

二人で走ったリレーマラソン。
次回は絶対に4人くらいで走りたい。
S井への復讐を胸に誓いながら、二人は帰路についた。

その夜、S井からまたLINEが届いた。
「すごい!完走おめでとう!」

「なめんなぁぁ!!」