ことりとも音を立てずに細くドアを開ける。

 

おそるおそる顔を出す。

 

眼前に広がる物々しい光景。

 

・・・

 

カジノであった。

 

ここは北新地のカジノバー。

 

テキサスホールデム。

 

俺たち(俺+会社の後輩1人)が挑む競技である。

 

「テキサスホールデム」はポーカーの一種である。

日本なじみのポーカー(他人のカードはわからない)と違い、プレイヤー全体で共有するカードで役をつくるという特徴がある。

 

ラスベガスで最も人気のゲームの一つだ。

 

参考画像「遊んでポーカーが強くなる! テキサスホールデム」

遊んでポーカーが強くなる! テキサスホールデム

 

 

俺たちは5,000円分のチップを持参し、卓につく。

 

他のプレイヤーを待つ。

 

・・・

 

1人のオヤジ。

 

年は50くらい。角刈りで中背中肉。

 

目つきはよく言えば鋭く、悪く言えば常に疑わしげで、爬虫類のようにギョロギョロと動く。

 

「お兄さんたち、初めて・・?」

 

俺と後輩は目を見合わせた。

 

(来たっ!初心者狩り)

 

参考画像「ハンターハンター1巻」

 

オヤジはゆっくりと卓についた。

 

プレイヤーは3人。

 

戦闘開始だ・・・。

 

一回戦。

 

オヤジはチップ7,000円分かけてくる。

 

俺たちが5,000円分しかチップを持っていないことを見越して、圧をかけてきたのだ。

 

ここで選択になる。

 

オールイン(※) or フォールド(降りること)。

 

※全賭け。自分のチップが他プレイヤーの賭け額に満たない場合、全賭けすればゲーム継続できる

 

俺の役はツーペア。

 

初心者である俺には妥当な判断が出来ない。

 

だが、俺はオヤジを見ていた。

 

「初心者狩り」として初心者。

 

そう踏んだ。

 

一回戦から揺さぶりだけで勝とうとしているのではないか?

 

そんな都合良く一回戦から強い手が入るだろうか?

 

初心者のオールイン(全財産=5,000円)に勝てるほどの手を?

 

・・・否

 

(入るはずがない・・)

 

「オールイン・・。ツーペアです・・・」

 

 

しばらくの沈黙・・・

 

「ナイス・・・」

 

両手を叩くことによる承認の表明。

 

オヤジは自分の手札を伏せたまま、チップを差し出した。

 

ブタだった。

 

「1万、チップ追加だ」

 

2回戦に突入した。

 

俺と後輩はオヤジを見ていた。

 

もし俺が「初心者狩り」だったら。

 

初心者あるあるを責めるはずだ。

 

例えば、初心者は大胆な賭けはしない。

レイズ(賭け額を倍にする)やオールイン(全賭け)は怖くてできない。

コール(ゲーム参加のための最低限の額を賭ける)だけ。

 

仮に賭けるとしたらかなり強い手が入っているとき。

スリーカードやストレートのような。

 

だから初心者狩りをするのであれば、以下の戦略をとるはずだ。

・初心者が弱い手(と思われる)時は圧を掛けて降りさせる

・初心者が強い手(と思われる)かつ自分が弱い手のときはベタ降り

・初心者が強い手(と思われる)かつ自分がさらに強そうな手(フラッシュやフルハウス)のときはレイズ

 

だが、オヤジは全部の勝負で「圧を掛けて降りさせる」の戦略一択だった。

 

気付けば、オヤジはチップ2万円分とられていた(俺と後輩から)。

 

「初心者狩り」狩り。

 

オヤジは俺たちの手中にいた。

 

「ディーラー、お前未成年やろ!そろそろ帰れ!」

 

オヤジはディーラーに八つ当たりしていた。

 

俺たちもオヤジから搾りすぎてドキドキし始めてきていた。

 

「そろそろ・・終電なんで帰ります・・・楽しかったです・・」

 

「手加減してもらって、ありがとうございました!師匠!」

 

たっぷりの皮肉を込めて。

 

さらば、初心者狩り。