
霧島山系の「新燃岳」である。
前夜、私は頭に来てママを怒鳴った。
体調が悪かったのだろう・・・。
明日の休みを前にして、くつろぎたい家庭で、腫れ物を触るような存在になっている彼女に辛抱できなかった。
彼女の現状を見れば、それも仕方ない事だと思うが、子供まで気を使わせる親ではあってはならないと感じたし、私自身も彼女に甘えたい気持ちがあるからだと思う。
私の声が少し変わったのを、小学6年の長男も、小学4年の次男も聞き逃さなかった。
ふざけていた態度をすっと引っ込め、黙って食事の手伝いを始めた。
長男が、場を取り持つみたいに饒舌に私に話しかけたのには驚いた。
幼い心に負担をかけてしまったのでは・・・と、子供の前でのケンカを恥ずかしく思った。
朝まで口をきかなかったが、山へ誘った。
彼女はついてきた。
登山道横のキイチゴを取り、ママの手に渡した。
甘酸っぱい自然の味は、ママの口に言葉を戻してくれた。
歩きながら、私は登山どころではない左足の痛みに耐えていた。
骨折からすでに5ヶ月以上が過ぎているのに、あまりにも緩慢な回復は腹立たしい。
下山する頃は、ママに追いつけないほど痛くなっていた。
しかし、その痛み以上に爽やかな気分だったのは、ついさっきまで見ていた新燃岳の火口湖のコバルトブルーとミヤマキリシマの絶妙のコントラストのお陰だけでは決してない。
その景色の中に、ママと一緒にいることが出来たからだ。
夜、私達の寝室のベットに寝そべりテレビを見ていた長女が、
「あれっ、昨日夫婦喧嘩していて、もう仲良しなのは変やわ!でも、昨日のことはお父さんの方が正しい気がする。お父さんは嫌いやけど・・・。」
あの時、いなかったはずの長女だが、どうも長男がその時の話をしていたみたいだ。
そんなことを、姉弟で話し合う事も驚きだったが、子供達に心配される夫婦になったのかと思うと、私は妙にいい気分だった。
【水流渓人レポート】http://www12.big.or.jp/~tsurukei/hotnews2/144shinmoe/144.html