【 HODL1:掲示板投稿に対する見解 】


 (その2)

(その1から続く)

6. 風説の流布として見た場合
金融商品取引法では、風説の流布や偽計が禁止されている。

 

ざっくりいえば、有価証券の売買等のため、または相場の変動を図る目的で、合理的根拠のない情報を不特定多数に伝える行為が問題になり得る。

この点、過去には、電子掲示板への書込みをめぐって、SESCが刑事告発した事例がある。

 

たとえば、実際には存在しない業績拡大記事や業務提携があるかのような内容を電子掲示板に投稿した事例がある。

また、「暴騰仕掛けが入る」など、合理的根拠のない株価上昇情報を電子掲示板に投稿した事例もある。

さらに、「空売りの踏み上げ相場」によって株価が大きく上昇する可能性があるかのような情報をウェブサイト上で発信し、株価を上昇させたうえで、あらかじめ買い付けていた株式を売り抜けたとされる事例もある。

これらはいずれも、主に株価上昇方向の情報発信が問題とされた事例である。

 

しかし、問題の本質は、株価を上げる方向か下げる方向かではない。

合理的根拠のない情報を使って、市場参加者の売買判断に影響を与え、その結果として自己のポジションを利することにある。

そう考えると、売り煽り型も同じように問題になり得る。

 

株価を上げるための虚偽・誇張情報が問題になるなら、株価を下げるための虚偽・誇張情報も問題になり得るはずである。

 

7. Yahoo!ファイナンス掲示板も例外ではない
もう一つ重要なのは、Yahoo!ファイナンス掲示板のようなネット上の投稿も、決して例外ではないという点である。

 

近時、Yahoo!ファイナンス掲示板への投稿について、風説の流布として課徴金納付命令勧告が出た事例もある。

つまり、「掲示板だから大丈夫」「匿名だから大丈夫」という感覚は通用しにくくなっている。

むしろ、投資家が多く閲覧する場所だからこそ、市場への影響という観点から重く見られる可能性がある。

掲示板への書込みは、単なる独り言ではない。

不特定多数の投資家が見る場所に、投資判断に影響し得る情報を置く行為である。

 

だからこそ、そこに売買目的が結びつくと、名誉毀損や信用毀損の問題を超えて、金商法上の不公正取引として見られる可能性が出てくる。

 

8. 会社側の対応として何が必要か
会社側としては、今回のように正式な見解を公表し、一次情報で説明することがまず重要である。

 

感情的に反論するのではなく、会計処理の根拠、貸倒引当金を100%計上した理由、損失計上を回避する目的ではないこと、法的対応を継続している理由などを、淡々と説明することが大事である。

一方で、会社側の反論リリースも、投資家向けの一次情報である以上、会計用語の正確性には十分注意する必要がある。

 

今回の「純資産を増加させる会計処理にはなっていない」という説明も、趣旨は理解できるものの、貸付金と貸倒引当金がまずは資産の部の話であることを考えると、もう少し丁寧な表現が望ましかった。

投稿者の断定的な表現が問題になり得るからこそ、会社側の反論は、より正確で、より誤解のない言葉である必要がある。

 

また、悪質な投稿が続く場合には、証拠保全も必要になる。

投稿日時、投稿内容、URL、スクリーンショット、株価や出来高の推移などを保存する。

さらに、投稿と売買の関係が疑われる場合には、SESCへの情報提供も選択肢になる。

会社だけでは、投稿者が実際に空売りしていたかどうかまでは確認できない。

しかし、当局であれば、投稿時刻、IP情報、証券口座の売買記録などを突き合わせることができる可能性がある。

この点は、会社側が独自に断定するのではなく、疑わしい事実関係を整理し、当局に情報提供するという形が現実的だと思う。

 

9. 投資家側にも問われるリテラシー
この件は、投稿者や会社だけの問題ではない。

読み手である投資家側にも、リテラシーが問われる。

 

掲示板には、鋭い指摘もあれば、感情的な煽りもある。

会社に不利な内容だから正しいとは限らない。

逆に、会社が反論しているから、すべて安心とも限らない。

大事なのは、掲示板の投稿だけで判断せず、会社の適時開示、決算短信、有価証券報告書、監査人の意見、訴訟開示などの一次情報に戻ることである。

そして、会社の一次情報を読むときにも、会計用語が正確に使われているかを確認する視点は必要である。

 

今回でいえば、長期貸付金と貸倒引当金の話は、まずは資産の部の話である。

そのうえで、貸倒引当金繰入による損益への影響や、利益剰余金を通じた純資産への影響を考える、という順番になる。

こうした整理をせずに、「純資産」という言葉だけで説明されると、投資家にとっては少し分かりにくい。

強い言葉は、投資家の不安を一気に刺激する。

一方で、会社側の説明も、言葉が粗いと別の誤解を生む。

 

だからこそ、投稿者にも会社にも、情報発信の丁寧さが求められるのだと思う。

 

10. まとめ
今回の件で、あれっと思ったのは、風説の流布という問題を「買い煽り型」だけで考えてはいけないという点である。

 

買い煽り型は分かりやすい。

好材料を流す。
株価を上げる。
高値で売り抜ける。

 

しかし、反対方向の売り煽り型もあり得る。

悪材料を流す。
株価を下げる。
安値で買い戻す。

 

仮に、売りポジションを持ちながら、合理的根拠の乏しい「粉飾決算」「虚偽記載」「上場廃止」などの重大な言葉を流布していたとすれば、それは単なる会社批判ではなく、株価下落を狙った情報操作と見られ得る。

 

会社批判は必要である。
空売りも市場機能である。

 

しかし、根拠なき悪材料の流布と売りポジションが結びついた瞬間、それは市場機能ではなく、市場を歪める行為に変わり得る。

一方で、会社側も、反論するのであれば、会計用語をより正確に使う必要がある。

掲示板上の断定的な投稿が問題になり得るとしても、会社側のリリースに会計的に粗い表現があれば、投資家に別の疑問を残してしまう。

 

掲示板の書込みは、ただの独り言ではない。
会社のIRリリースも、ただの反論文ではない。

 

どちらも、市場に向けた情報発信である。

だからこそ、投稿者にも会社にも、言葉の重さと正確さが問われるのだと思う。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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