すべてのアイドルファンが山口に向かって最敬礼すべき日、11月26日。 | 劔樹人の「男のうさちゃんピース」

すべてのアイドルファンが山口に向かって最敬礼すべき日、11月26日。





道重さゆみさんがモーニング娘。を卒業されてから、はじめての11月26日がやってきた。



あれから1年。
道重さんが人生のすべてのようだった多くの熱心なファンたちにも、1年という月日が流れてしまった。


もう現場に行くことをやめた人。
ぼんやり箱推しやハロ推しとしてやっている人。
道重一筋を継続して貫いているため何もやることがなくなった人。
ちゃっかり若い娘に流れた人。

人それぞれだけど、なんだかんだみんな生きている。





1年前のことを思い出してみる。

関わる人、ファン、ちょっとでも気にしている人は、総じて異様な雰囲気だった。
亡くなったわけでもない人に対して日本中で流れた涙の総量としては異例の、何ガロンとかそういう、相当なレベルだったんじゃないかと思う。

当時Negiccoの新曲に関わっていたコンバットRECさんが、「本当は告知をしなくちゃいけないけど、道重が卒業するまでは控える。すべてのアイドルファンが最敬礼で送り出すべき」とおっしゃっていたのが、とっても印象に残っている。



終演後私が書いた送辞としてのブログは、アンジュルムの福田花音ちゃんがイベントで、
「劔さんの道重さんについての感動的なブログ読みました?」
と発言してくれたこともあってか、とてもたくさんの人に読んでいただいた。

今じゃあ神聖かまってちゃんのファンですらチェックしないようなブログが。
それだけみんな、道重さんについて誰かと語り合っていたかったということだと思う。



1年経ったが、自分の思いは変わらない。
道重さゆみさん以上に、誰かの人生に大きく影響する(これはよくいうドルヲタの「人生狂わされる」という表現とは全く意味合いが違う)アイドルが生まれてくることは全く想像できない。

同じ時間を生きてこれたことをこんなに感謝させてくれる存在。
今もみんな、彼女のことを想うだけで幸せなのだ。
昨日は、日本中のいたるところで、ファンたちによる卒業1周年を祝う催しがしめやかに行われていた。



相変わらず、道重さゆみさん本人の現在の情報はほとんどない。
偶然にも26日には女優の原節子さんが亡くなったというニュースが報道されたが、引退後50年間全く表舞台に出てくることのなかった伝説の大女優ともその生き方が重なる。


しかし、私たちは今でも、彼女がモーニング娘。として輝いていた時間を12年という時間の膨大な記録から知ることができる。

せっかくだから、道重さゆみと出会う人生を、ひとりでも多くの人が選んでほしいということを、私は訴え続けたいと思っている。



というわけで、古い原稿ですが、道重さゆみさんの卒業ライブBlu-Ray/DVDに関して、私がCDジャーナルさんに書かせていただいたレビューから引用させてもらって、道重さゆみさん卒業1周年に贈る言葉とさせてください。





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<出会ってくれてありがとう。>


道重さゆみという人物が現代アイドルのひとつの頂点であること、これに関しての異論は一切認めることができない。


ダンスや歌など、スキルで彼女より優れたアイドルは幾らでもいるだろうが、その思想、生き様、表現方法、物語性において道重さゆみ以上に人々の心を揺さぶるアイドルが歴史上存在したか、いや、今後登場するとも到底思えないのである。

しかもそれは決して天才の所業ではない。
何も出来なかったひとりの少女が、12年にも及ぶ絶え間ぬ努力の末に手に入れたものだからこそ、人々は道重さゆみに心惹かれ、強く共感するのだ。


自己を愛し、モーニング娘。を愛し、ファンを愛し続けた道重さゆみは、つんく♂がハロープロジェクトを通して表現し続けてきた「人間愛」を最も体現していたメンバーだったと言えるが、そんな彼女の愛はモーニング娘。のリーダーに就任した2012年以降、爆発的に多くの人を巻き込み、2014年11月26日、この横浜アリーナでの卒業コンサートでピークを迎えた。

超満員の横浜アリーナ、全国の映画館でのライブビューイング、さらにBSスカパーでの生放送と、とてつもない人数が注目する中、道重は完璧な卒業式をイメージし、準備してきたと思われる。
それなのに彼女は、よりによってその大舞台の途中で脚を負傷するというハプニングに見舞われる。

しかし、道重が踊れなくなる中、残りのメンバーたちは自分たちの判断でフォーメーションダンスを再構築し、見事にステージを進行するのである。

それは偶然にも、絶対的支柱であるリーダー無しでステージに挑むメンバーと、頼もしくなった後輩たちを見つめる道重という、道重の卒業後を暗示するかのような構図を生み出し、感動的なドラマとなった。


映像では道重に明らかに異変が起きている部分や、途中の中断などはしっかりカットされており、予備知識がない人にとっては全て演出に見えるような編集になってはいるが(ハロー!は良くも悪くも、舞台裏やトラブルを必要以上に売り物にしない傾向がある、個人的には問答無用で支持)、この日のひとつのハイライトとなった、次期リーダー譜久村聖が道重のためにアドリブで花道をかけ戻った通称「フクムラダッシュ」は、譜久村や道重の表情までしっかりと収められているし、「絶対泣かない」と宣言していた道重が思わず見せる、本編ラスト『Be Alive』での悔し涙はどこまでも心を打つ。

トラブルにより予定を大きく外れた舞台進行の中、道重とメンバーに突き動かされるように重要な場面をしっかり記録していたカメラワークも本当に素晴らしい。


また、「(アイドル戦国時代において)私たちは負けているとは思っていない」「私たちがもう一度全盛期を迎える」などの発言でメンバーからファンまでを鼓舞してきた道重は、そもそも求心力のあるアジテーターであったが、その集大成とも言えるのが、どこを取っても心震えるパンチラインしかない8分にも及ぶこの日の卒業スピーチである。

その中で道重はこう言う。
「みんなに出会えてよかったです。さゆみのことを見つけてくれて、出会ってくれてありがとう」と。
その「みんな」が、道重さゆみと出会えたことでどれだけ人生が輝いたことか。

人生にはふたつしかない。
道重さゆみに出会う人生と、出会わない人生だ。

何も知らない人も、今からでも遅くはない。迷わずこの作品から、彼女に出会う人生を選ぶべきである。

(劔樹人/CDジャーナル2015年3月号より加筆修正)