シンデレラ……メイ
グレーテル……ツバキ
白雪姫……カノン
眠り姫……コトノ
ヘンゼル……ハナビ
シンデレラ
『私はいつだって待ち望んでいる!私を素敵にしてくれる魔法使いを!そして、私を見つけ出してくれる王子様を!』
グレーテル
『私はいつだって待ち望んでいる!魔女をやっつけるその日を!そして自らの解放を!』
白雪姫
『私はいつだって待ち望んでいる!毒林檎なんて食べなくても良い世界を!私と共に苦楽を共にしてくれる七人の小人との出会いを!』
眠り姫
『私はいつだって待ち望んでいる。深い深い眠りから覚める時を。私だけを愛してくれる王子様との出会いを』
ヘンゼル
『僕はいつだって待ち望んでいる。僕を助けてくれる誰かの存在を。願わくば父と母の幸せを』
シンデレラ
『ねぇねぇ聞いた?グレーテル!隣の国のお姫様が死んじゃったんだって』
グレーテル
『そんなの知らないわ。私の国には王子様なんていないもの。代わりにいるのは怖い義母と魔女!』
ヘンゼル
『ぼ、僕のせいだよね、ごめんね……』
グレーテル
『お兄ちゃん!ネガティブなのやめなさいよ!私がなんのために魔女の下で働いてるかわからないじゃない!』
白雪姫
『話を戻しますが、隣の国のお姫様が死んだとはどういうことですか?』
眠り姫
『何やら物騒やねぇ、私が眠ってる間に何があったんや?』
シンデレラ
『なんだか世間が大騒ぎなの!取り残されてるのは私達くらいだよ』
眠り姫
『取り残されてるのは私らずっとやろ』
グレーテル
『……まぁ、そうですわね』
ヘンゼル
『……僕達の世界は、いたはずの優しい父様が消えて、魔女がずっと悪事を働いています』
グレーテル
『私達が殺されるのも、時間次第だわ』
シンデレラ
『私の世界には王子様がいなくて、ずうっと継母とお姉さん達が意地悪してくるの。白雪姫の世界もでしょう?』
白雪姫
『えぇ、多分。でも私の場合は悪い魔女もいないんです。いるのは空想の七人の小人だけ。眠り姫さんは?』
眠り姫
『私んとこは王子様いてはるよ』
白雪姫
『えぇ!じゃあハッピーエンドを迎えられるじゃないですか!』
眠り姫
『それが、いつまで経っても迎えに来てくれへんの!だからずっと私は眠ってるフリしとるわ』
シンデレラ
『何その王子様、役立たず……』
眠り姫
『私らの世界にいる他の役なんて、そんなもんやろ』
グレーテル
『まぁ、そうですわね』
ヘンゼル
『じゃあええと、これからどうするんですか……?』
シンデレラ
『そんなの決まってるじゃん!せっかく私達のそれぞれの世界がこうやって一時的に繋がったんだもの!謳歌しようよ!』
グレーテル
『呑気なこと……』
シンデレラ
『だって隣の国の事なんて私は知らないし。それより私は自分の物語を変えたいの。嫌なページは全部破り捨てて、新しいページを作りたいの!』
白雪姫
『自分も賛成です!正直隣国を気にするほど余裕もありませんし』
眠り姫
『私はなんでもええよ』
シンデレラ
『そこの兄弟はどうすんの?』
グレーテル
『私ももちろん、今の自分を変えたいけれど……。でも、そうね。せっかくのチャンスを逃したくはないわ』
ヘンゼル
『……みんながそう言うなら、うん』
シンデレラ
『なら私から理想の物語を話してあげる!』
シンデレラ
『朝起きたらホカホカのご飯。私はお母さんお手製の卵焼きが大好き!それからお弁当を持って出かけるの。そこにはたくさんのお友達がいて、楽しく時間を過ごして、たくさん笑ってハッピー!日が暮れる頃にはおうちに帰って、家族みんなでご飯を食べるの。お姉様も優しくって、時折私が好きなおかずをくれたりなんかして!夜はふかふかのベッドで素敵な明日を夢見て眠るの。どう?素敵でしょ?』
グレーテル
『お兄様とお父様と二人で幸せに毎日を過ごしたい。そこには再婚相手のお母様もいるけれど、お母様は私達のことが大好きですの。いつだって温かいスープを用意してくれて、私達の好きなことをさせてくれる。それからお菓子の家を見つけて食べてしまっても、意地悪な魔女はやってこない。お兄様は捕まらないし、私もこき使われることなんてない。美味しいお菓子を食べたいだけ食べるわ。』
白雪姫
『毎日森の動物と楽しくお話して、美味しい木の実を持ち帰って素敵なサラダを作りたいですね。健康第一ですから!あと、私と一緒にいっぱい笑ってくれる七人の小人と出逢うんです。笑うだけじゃない、きっと大変な事もあるだろうけど、一人じゃなければ大丈夫。乗り越えられます!毒林檎を持ってくる悪い魔女だって、美味しい毒のない林檎をくれてお友達になる、そんな物語』
眠り姫
『眠るのは世界が静かになる夜だけ。朝は、私を愛してやまない王子様が優しく起こしてくれる。糸車を見たってちっとも怖くないし、みんなに招待状を出して、たくさんの魔女が祝福の魔法をかけてくれる。茨が例え城を覆ったって、それはオシャレに見えるだけのオシャレ茨。なんて、流石にそれは無理がある?でも、そんな洒落があるくらいが、私の物語には相応しい』
ヘンゼル
『妹と二人、ずっとずっと仲良く暮らしていて、その生活を邪魔する人は誰もいない。家族もみんな優しくしてくれて、共に生きていこうと支え合っている。それは僕達以外のみんなもそうで、苦しみも憎しみもない、優しい世界。魔女も、ここにいるすべての登場人物も、みんなみんな、笑顔で。』
ヘンゼル
『ただ僕は思うんです。夢見る世界を望む事は悪い事じゃない。けれど、隣の国のお姫様は?死んじゃったお姫様は、ハッピーエンドの中での死だったんでしょうか?それがわからないまま、僕達だけが幸せになろうとするのは、いい事なんでしょうか?』
シンデレラ
『なら私達は隣の国のお姫様の為にしくしく泣きながら、またつまらない毎日を過ごせって?』
白雪姫
『私達に人権がないですよ、人権が!』
グレーテル
『そうですわ。こっちだって、いつ隣の国のお姫様みたいに死んじゃうかわからないのよ?』
眠り姫
『それに、きっとハッピーエンドやったんちゃうの、隣の国のお姫様も』
シンデレラ
『そうだね。誰より素敵な子だったし』
グレーテル
『……まぁ、才能はずば抜けていたわね』
白雪姫
『誰にでも優しかったですしね』
ヘンゼル
『……え、みんな、覚えてるんですか?隣の国のお姫様のこと……』
シンデレラ
『なんとなく、ここに来たら思い出しただけ。あの子、最高に面白かった。いっつも私とは喧嘩してたけど、それはお互い譲れない思いがあったからで、……だから、いなくなってからはつまんない』
白雪姫
『包容力っていうんですかね。私、一回だけ話を聞いてもらった記憶があります。私まで笑顔になれて、あんな風になりたいなって思いました』
グレーテル
『……私は、一人で復習をしている時にたまに相手をしてもらっていたわ。なんていうか、昔から知ってるみたいな感覚だったのを覚えていますの。でもなんだか綺麗すぎて、逆に近付きにくかった』
眠り姫
『……』
ヘンゼル
『眠り姫さん?』
眠り姫
『メイ、あんた……』
シンデレラ
『何?今の私はシンデレラよ!』
グレーテル
『あ……。嘘、ちょっと!』
シンデレラ
『いたっ、何、腕掴まないで!……って、……え?何?メイ、体が透けて……』
白雪姫
『これは……』
シンデレラ
『……やだ、やだやだやだ!!だってまだメイ、叶ってないよ、エトワールになってない!!ねぇ学園長、今すぐメイをエトワールにしてよ!そしたら、現実だって、夢みたいな、……っ、やだ!!やだやだやだ!!戻りたくない!!』
グレーテル
『っ、シンデレラ!落ち着きなさい!』
シンデレラ
『……!』
グレーテル
『貴女の望みは何?』
シンデレラ
『……、……朝、起きて……ホカホカのご飯を食べ、て……。……もう無理だよ、幸せな未来なんかないんだ……』
グレーテル
『そんな事ないわ。貴女は例え夢の中でも強かったもの。堂々としていて立派だわ』
シンデレラ
『それあんたが言う?』
グレーテル
『少なくとも私よりは人当たり良かったわよ。いつも笑顔を心がけるのは並大抵の事じゃない。だから、望みを捨てないで』
シンデレラ
『……ははっ、馬鹿みたい』
ヘンゼル
『メイ、さん……。シンデレラ……!』
シンデレラ
『……ハナ、……私、まだ頑張れるかな……?まだ、エトワールになること、諦めなくても、いい……?』
ヘンゼル
『いいに決まってるじゃないですか!』
シンデレラ
『……馬鹿みたい、こんな優しい夢物語的な展開、面白くもなんもない』
白雪姫
『……』
シンデレラ
『なんだか、眠くなってきちゃった。ガラスの靴、私の家に届くといいな……』
グレーテル
『……』
ヘンゼル
『消えちゃった……』
眠り姫
『死んだって訳じゃ、なさそうやけど』
四人
『!?』
白雪姫
『こ、今度は何ですか!?ホールが、揺れて!?』
グレーテル
『まさかこの世界ごと終わるの!?』
眠り姫
『こんなん聞いてへんけど!?』
ヘンゼル
『け、結局これはどうなるんですか!?まだエチュードは続行なんですか!?』
白雪姫
『……っ、私も嫌です、現実になんか戻りたくない!』
眠り姫
『カノン……?』
白雪姫
『また目が覚めたら死にたいと思う毎日が待ってる、私は幸せになりたいわけじゃない、ただ、死にたいなんてもう思いたくない!』
眠り姫
『お、落ち着いて……』
白雪姫
『コトノさんはいいんですか!?このまま目が覚めても!』
眠り姫
『……』
グレーテル
『ちょ、ちょっと、今は言い争ってる場合ではなくてよ……!』
白雪姫
『事なかれ主義はいつか身を滅ぼしますよ!』
眠り姫
『……』
ヘンゼル
『……大丈夫ですか?』
眠り姫
『大丈夫。……確かにそうやなって、思っただけ』
白雪姫
『そもそももう朝が来ているのかもしれません……!』
グレーテル
『朝……』
ヘンゼル
『朝になったら、星は輝けない……』
白雪姫
『?』
ヘンゼル
『……なんでもありません』
ツバキ
『学園長、エトワール発表を希望します。反対意見を持つ生徒は?』
コトノ
『おらんやろ』
カノン
『いないですね。学園長、私達には時間がありません。一刻も早く!』
ハナビ
『……』
暗転。