大正×対称アリス all in one 感想

※ フルコン、トロコン済
※ ネタバレ有
※ 冒頭はネタバレなしの感想です
※ 万一未プレイの方がいらっしゃったら、悪いことは言わない。Uターンして先にプレイしてください。
※ 解釈が違ったらすみません。一意見、ということでお許しを。

さて。噂の対アリをフルコンしました。
すっごい話でした。
なんといってもシナリオの作りこみがすごかった。
覆されていく前提、繋がっていく伏線。
それぞれの童話の物語になぞらえた、作り込まれたストーリー。
コミカルなやり取りはとことん面白くて何度も腹を抱えて笑ったし、シリアス部、というか真相は言葉を失うしかありませんでした。
最後は成程、「アリス」でした。
ほんっと、何もかもが伏線で無駄なところが一切無いのがすごい。

あと、主人公ちゃんが強かで行動的でぶっとんでいて良かった。
百合花ちゃんに攻略された人も少なくないはず。
キャラの立った主人公はちょっと…という方もいるのかな。それだと楽しめないのかもしれない。

そして、鏡の国の世界観はとても独特です。
少し前の日本のような、メルヘンのような、現代日本のような。
始めは色々気になったりするかもしれませんね。あるいは私みたいに、「こういう設定なのかー。変わってるなー。」と思う程度かもしれない。
いずれにせよ、「世界観を楽しむ」ことの楽しめる世界観だったし、いたずらにはっちゃけた設定になっていたわけでもないのです。

お気に召したのはシンデレラ兄さん、かぐや君。あと魔法使いさん。
でも、どの子も良かったです。

サントラも、ピアノとか木管楽器とか、クラシックな楽器のサウンドが中心で、雰囲気があって良かったです。
PC版の連動購入特典でサントラCDがあったらしいのですが今となっては手に入らないとのこと。
ワンチャンください3千円くらい出しますから買わせてくださいと何度思ったか。

以下、少し踏み込んで感想を。
本当は各キャラの一挙一動について語りたいくらいなのですが。
プレイ前の方は悪いことは言わない。先にプレイして直接衝撃を受けてください。本当に。

















■ 全体のシナリオについて

とにかく度肝を抜かれたのは物語構造でしょうか。

普通、乙女ゲーって、主人公ちゃんとメインストーリーは共通なのだけど、あるキャラクターのハピエンが成立する限り、他のキャラクターのハピエンは成立しないですよね。
そういうものですよね。それを、我々乙女ゲープレイヤーは矛盾は感じずにプレイしているのですが。
一番覆された前提だったと思います。

暗闇の中、記憶が無い状態でスタートする冒頭。
それぞれのキャラクターの物語に進んだ後は何度か選択肢を誤って「バッドエンド」を迎え、「やり直す」。
それぞれのキャラクターと「ハッピーエンド」を迎えた後はまた始めから。
他のキャラクターの物語でまた「ハッピーエンド」を目指す。

…この一連の行為は乙女ゲーをプレイする上で普通のことなのだけど、これが物語の肝だとはまさか思いませんでした。

現実世界の百合花が、アリステアを救うために、アリステアの精神の世界に自分の分身を作り、それぞれのキャラの物語の主人公となって、分裂した人格たちを救いに行っていた。
そういえば、どこだったか忘れてしまいましたが、この作品の紹介文で、「ハッピーエンドを目指す」とわざわざ書かれてましたね。ハッピーエンドはこの世界では「目指す」ものだったのです。成程!!
魔法使いさんがやけにメタなこと言ってくるなー、でもこのゲームはそういうはっちゃけた仕様なのかなーと思ってはいましたが。

乙女ゲーをしていて常々思うのは、主人公ちゃんを分割してそれぞれの攻略キャラに分け与えたい!ということでして。
あるキャラの√での物語、そのキャラの変化や救いというものは他のキャラの√には無いですし、そこでの主人公ちゃんへの思いや心情を想像すると辛くなることもしばしばです。
そういう私の願望が叶ってしまった訳です(笑)
あ、作中約1名、寧ろそれによって救われない人はいますね。魔法使いさん。

全員の物語が一本の線の上に繋がっていて、無くてはならないものだった、というのはとてもいいなと思います。
最後はハッピーエンド(ハッピーエンド?も含む)を迎えた攻略キャラクター達が一堂に会して今後について話し合う。
なんだこの展開!!こんなのアリか!!?
とんでもない展開だなあ。好きだなあ。
本当は、分裂人格のキャラクター達が消えて統合されるのが落としどころとしては「正しい」のでしょうね。
でも、彼らは意志を持ち、「民主主義」の下、違う道を選ぶことに合意し、アリステアもそれを受け入れる、という結末になっていて、こういうところが対アリのすごいところだなあと思います。


どの√も、ものすごく本気で心を抉ってくるというか、きっつい問題を抱えた王子様達だと思っていたのですが、真相を知ると、それも腑に落ちますね。
彼らの世界は夢という精神世界で、それぞれは心に傷を負ったアリステアの切り離された人格だった訳ですから。
そういう心の傷こそが本題なので、読んでいて辛くなるのも当然かもしれません。
でも、彼らを救う百合花ちゃんは結構、力技というか荒療治が多かったですね(笑)そういうとこ好きです。


白雪君√で、これまで攻略したキャラが全員兄弟という設定で、ドタバタ楽しくてこれは夢かと思っていたものですが本当に夢で切なかったです。
「夢とは記憶の断片」という、冒頭のアリス君の台詞の伏線が、ここでもある意味効いていたのかなというのは個人的な解釈です。
ここまで攻略した4人の記憶が、プレイしている私にも有る訳なのですから。


あと、攻略キャラクターの王子様達が「シンデレラ」やら「赤ずきん」やら、ありえない名前で呼ばれていたのも納得。
始めは「ん??どゆこと?コードネームか?」と疑問を抱いたものですが、特に物語の進行に支障をきたしていなかったので徐々に違和感を感じなくなっていたというか忘れていました。
しかし今思うとそれも、この物語が夢という枠組みで成り立っているが故の非現実だったのかなと。あれっ?何言ってるか分かります?私はこんがらがってきました(馬鹿)


最後のアリス編は、各物語の世界を軽快にぴょいぴょいと渡っていくドタバタ展開。並行して語られるのはアリステアの真実。
アリステアの回想でこれまでの攻略キャラのエピソードがことごとくつながっていくのは腑に落ちていくと共に切なかったです。
あと、それぞれの物語の王子様を振るのも切なかった。
でもどの王子様も(まほさん除く)自分の百合花を愛していて、大事な人と瓜二つな百合花を心から助けようとするので、それぞれのターンで漏れなく全員惚れなおしました。
百合花が各物語の世界を渡っていく展開は、この対アリという物語そのものを示唆しているなあと思いますし、「アリス」の物語だなあとも思います。
成程、このゲームのタイトルは「アリス」です(馬鹿)


あと、これは個人的に思っていることなのですが、物語ごとに設定や各キャラクターごとに立ち位置が変わるのですが、PC版が発売された順に見ると繋がって見えません?
・ episodeⅠ
シンデレラ→シンデレラ√。色々あって引き続き喫茶店にまた住むことに。角が取れて面倒見のよいお兄さんになる。
白雪→シンデレラ√喫茶店勤務
グレーテル→シンデレラ√喫茶店勤務
かぐや→シンデレラ√別行動。有栖家使用人。たまに喫茶店に来る。

赤ずきん→赤ずきん√で別行動。

魔法使い→シンデレラ√赤ずきん√
アリス→シンデレラ√赤ずきん√

・ episodeⅡ
かぐや→かぐや√。シンデレラの喫茶店に居候することになり喫茶店の仲間たちに合流。
シンデレラ→かぐや√喫茶店勤務。
白雪→かぐや√喫茶店勤務。

グレーテル→グレーテル√別行動
赤ずきん→グレーテル√で引き続き別行動

魔法使い→かぐや√グレーテル√
アリス→かぐや√シンデレラ√

・ episodeⅢ
白雪√:だんだんみんな喫茶店に集まってくる
シンデレラ→喫茶店勤務
かぐや→喫茶店勤務。
赤ずきん→合流。喫茶店勤務。
グレーテル→合流。喫茶店勤務。
白雪→喫茶店から離れて別行動。

魔法使い→いつも通り
アリス→いつも通り?

魔法使い√:まほさんも合流?
シンデレラ→兄弟の長男
白雪→合流。次男。
赤ずきん→三男
かぐや→四男
グレーテル→五男
魔法使い→合流。探偵。

アリス→????

・ epiloge
シンデレラ白雪赤ずきんかぐやグレーテル魔法使い→水晶の部屋へ招集
アリス→アリステアとして水晶の部屋で合流

あと、攻略が進むにつれて現実世界に近づいていきますよね。
魔法使い√なんか、現実世界そのものじゃないですか…

キュートでちょっとダークなOPも、民謡調で雰囲気のあるEDも良かった。
EDのグラフィックは幻想的でとても好きです。
あと!PC版のディスクごとにOPが違うバージョンになってたの感動しません??


全体については大方語ったのでキャラごとの感想を。力尽きてきたのでさらっと書きます。
■ シンデレラ
振り返ってみると一番少女漫画みたいで平和でしたね。
冒頭の尊大なところもだんだん無くなっていって、面倒見の良いいい人になってた。
シンデレラ百合花カップルはとても好きです。
小娘に振り回され尻に敷かれるシンデレラさん可愛すぎる…/////
男らしいけれど振り回されるのは、根っこは優しいからなんだろうなあと思います。
華やかな生活が忘れられない、心を埋める為に買い物をする、という問題は対アリの他の王子様と比べるとライトな方だけど、結構心に刺さりました。
この√で百合花ちゃんが失踪したシンデレラさんを探して無理矢理捕まえるくだり大好きです。
百合花ちゃんつよい。

他のキャラの√では面倒見の良いお兄さんで常識人担当になってて和みました。
そうです私の好きな兄キャラです(聞かれてない)
cv.平川大輔の威力よ…!
アリス√のシンデレラ兄さんのターンでグレーテルにスイーツ代3千円を請求されてダメージ受けてたところは可愛かったです。
3千円は立派な大金や!!!笑
あと、足フェチネタを最後まで引っ張られてて笑いました。


■ 赤ずきん
冒頭の印象はなんかクールでミステリアスで格好良い子来たー////
と思っていたのですがえっらい勢いでキャラ崩れてましたね。
けもみみを目にしたときは衝撃でした。
それ以上に、この√では種明かしをされて衝撃でした。
百合花ちゃんつよい。
赤ずきん君√はそんなに闇深くないですし、終始純粋で良い子だったなあ、と思います。
最後の告白シーンはひたすら頑張れー!!!と思いながら見守っていました。爽やかな風の吹き抜けるシーンだったと思います。

あと他のキャラの√では天然発揮してて和みました。対アリメンツの良心担当。


■ かぐや
シンデレラさん√では愛想は良いけどつかみどころのない、強かそうなキャラだなーと思っていたのですが、かぐや√のかぐやんは印象違いました。
大人しいし何でも百合花ちゃんに従ってしまうし頼りないし。
元カノ達の仕打ちが明らかになったとこは読んでて辛かったです。
そして、「月に帰る」ってそういうことか!!!ひいい…
かぐや√は痛々しいし笑えない重さでしたね。
でも、物語の最後には百合花ちゃんを助けようと必死になって声を荒げたりしてましたね。
アリス√のかぐやターンのかぐやんは強かブラックかぐやんに進化してたし、百合花ちゃんを引きとめようと本気で声を荒げてて、はじめの脆くて弱い様子からの成長に感動しました。
必死かぐやんもブラックかぐやんも尊いと思います。

あと筆者が関西の人間故、かぐやの関西弁にははじめ引っかかっていて、関西弁キャラは関西出身の声優さんにやってほしかったなーと思っていました。
でももし仮にかぐやんがガチ関西弁を喋ってたらそれはそれで何かかぐやんでなくなりそうなので、やっぱりいいやと思いました。


■ グレーテル
可愛くない。そこが可愛かった。
グレーテル√はいきなり監禁されるところから始まって、どうすんだこれから…と恐怖してました。
でも読み終えてみると、グレーテル君の全てが愛おしくなるような話だったなあと思います。
甘いお菓子の誘惑=百合花姉さん…で、グレちゃんを狂わせるというのが独特な雰囲気を放つ√でした。
猟師さんに怒られるグレーテル君は可愛かった。

episodeⅢではヤンデレネタで輝いていて楽しかったです。
「お前がヤンデレじゃなかったらなんなんだ!ヤンヤンか!」
「落ち着けグレーテル!!」
というシンデレラ兄さんの台詞は名台詞だと思います。


■ 白雪
天使。白雪様。
ミステリアスで一番人間離れしてる印象だったのだけど、百合花に初めて会ったときに「なんて綺麗な女の子なのだろう」と言ってたり、一人称が「俺」だったり、だんだん人間味を感じてきました。
しかし彼の√は彼自身の可愛さとは対照的に、とんでもなく気の滅入る話でしたね。
壮絶でした。
本当の兄は?ってなるくだりとか、人がだんだん街から消えていくくだりの薄ら寒さ。
お母さんの実態が分かった時の恐怖。

そういえば白雪君は鏡の国の世界の実体に気づいていましたね。
『白雪姫』の物語はお姫様が「眠り」についてしまう話で、『アリス』の物語も全て夢だったという話で、「眠り」というものは共通しているのだなとフルコン後に気づきました。
対アリ全体の流れと白雪君の物語が交差しているところがあるのはそういう所によるのかなとも思う。

あとしつこいようですが天使。
魔法使い√で百合花が部屋を訪れたとき、急いで部屋を片づけたと思しき間の後、笑顔で現れたところの可愛さが最高でした。


■ 魔法使い
さて。まほさんです。
何と言っていいか分からない。言葉を失う、という感じです。
他のキャラの√でバドエンを迎える度に魔法使いさんが表れるの結構好きだっただけど、そういうことだったのか!
エピ2メンツの√までは隠されてたけど、あの後百合花を殺してたんですね…
現実の百合花を愛した故の永遠の片思い。
「Let’s pretend!」のくだりのスチルは残酷で、まほさんの運命の悲しさを感じて切なかったです。
彼の一途さはそのまんま悲劇です。
百合花の分身を殺すのもきつかっただろうなあ。
最後に水晶の部屋で王子様達が話し合うところでも頑なに本物の百合花が好きだといっててさあ…!
クリア後に見れるSD絵で、彼がひとりで忠誠のポーズしていたのに号泣しました。
まほさんとこの百合花ちゃんも気の毒ですよね。彼女も永遠の片思いで、全部分かった上でまほさんの傍にいる訳ですから。
そういえば、「魔法使い」というおとぎ話も魔法使いと結ばれるおとぎ話も無いですよね。少なくとも私の知っているメジャーどころでは無かったはず。
うわあ…

一方で、まほさんとまほさんとこの百合花ちゃんのニコイチ感が好きだったりします。
二人でチェスをしているスチル良いですよね。
二人の屈折した感じの信頼関係はそれはそれで癖になりそうです。

こういうポジションのキャラは、シナリオは面白くて切ないし感動するのだけど、推しになることはこれまでなかったです。
でも魔法使いさんは推しキャラになりました。


■ アリス
追いかけられる「アリス」!
彼の暴言の数々はとても楽しかったです。
アリス君が登場するだけでギャグ色になるので。
まさか彼もアリステアの分裂人格だとは!!
てっきりアリス君は特別な立ち位置にいると思ってたよ…
最後の選択肢でアリステア君でなくアリス君を選ばないとグランドエンディングに行けないとはね…!
でも考えてみればそうか。
でないと分裂人格の王子様は全員救われたことにならないもんね。


■ アリステア
いい子だったなあ…
最後の民主主義の場面での懸命な姿に成長を感じました。
彼の印象はあんまり残らないのだけど、対アリメンツの誰よりも心優しい子ですよね(笑)
もっと登場して、他のキャラと絡んでたら絶対和んでたと思う。

結局、それぞれのキャラは夢の世界で生きることを選んだ訳だけど、アリステア君が亡くなったら皆消えてしまいますよねきっと。
そう考えると手放しに喜べない感じもするグランドエンディングでしたが、完全にめでたしめでたしとならずに現実を突き付けてくるのが対アリだとも思いますし、全て解決しなくても良いのかな。



現在、FDが早くやりたくて堪らない呪いにかかってます。