- 僕と彼女とギャルゲーな戦い (メディアワークス文庫)/西村 悠
- ¥599
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小説家を目指すも夢破れ、就活では60社を受け連敗中。
そんな失意の底に沈む嶋谷一(通称イチ)の前に現れたのは、
高校時代に憧れていた美しき先輩。
彼女は昔と変わらぬ笑みを浮かべ、戸惑うイチにこう告げるのであった。
「私に、付き合ってほしいの」。
ギャルゲーのような展開で騒がしくなったイチの夏休み。
しかしイチが引きずり込まれたのは、まさにギャルゲー作りの
現場そのものだった!?
ちょっとショッパイ青春グラフティ。
書き下ろし。
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現役のゲームシナリオライターがゲーム制作の現場を描いた物語。
と、あとがきにあった。
という事で、リアルな現場の姿が描かれてる本作。
僕の仕事も同業種では無いものの、ソフトウェア開発という面から見ると
親戚みたいな業界なので、興味深い内容だった。
舞台となっているのは社員わずか6名という小さなゲーム制作会社。
その会社の社運をかけたギャルゲー制作に、高校時代の憧れの先輩に
スカウトされた大学生の主人公が、シナリオライターとして
取り組むというお話。
ギャルゲーか…。
遠い昔の話だけど、「ときメモ」借りてプレイしたっけ。
一回目でバットエンドで、それっきりだった気がするけどw
何気に難易度高かったし。
後はギャルゲーじゃないけど、「パワプロ」のサクセスモードとかも
それっぽいジャンル。
ゲーム制作の現場は相当ハードだと聞いた事があるけれども、
本作を読むと、実際そうなんだろうなという印象。
厳しい納期、担当者の失踪、徹夜続きでの作業などなど。
そんなハードな業界であるにも関わらず、そこで働き続ける事が
できるのは、彼らが情熱を持ち続けているから。
給与とか待遇とかって言うまでもなく重要な要素なんだけど、
決してそれだけでは無いんだよなぁ。
普段、仕事に対して冷めたことばかり言っていても、情熱を秘めている
人って少なくないと思う。
対象的に仕事=収入源という割り切った考え方で、家族と過ごす時間を
大切にしたり、趣味に没頭するのもそれはそれで全然アリだと思う。
それだって豊かな人生だ。
それに過労死に象徴されるように、日本人は働き過ぎの傾向あるし。
当然ながら価値観は人それぞれ。
僕はと言うと、一日というか人生の大半を仕事をして過ごす訳だから、
それを楽しみたいし、やり甲斐を感じていたいと思っている。
だから多少ハードで、給料が安くても好きな事を仕事に出来ている
今って、何気に幸せなんじゃ無いだろうか。
仕事を通じて、成長出来ている面もあるし。
普段は息をするように仕事しているから、全く考えないけど。
まぁ、もうちょっと楽で、高給になる事は大歓迎w
社会人と学生の意識の違いというのも大きなテーマの一つ。
毎年4月になると、「学生気分」という単語が聞こえてくるけれども、
会社に属すると同時に、お金と時間について意識させられる。
限り有るお金と時間の中で、いかにお客さんが満足するレベルの
仕事が出来るか?という事。
作中でも学生である主人公は、この社会の壁にぶち当たる。
ゲーム制作って創造的な仕事だし、品質と時間的、金銭的コストの
バランスは物凄く難しい問題だと思う。
そこから端を発した問題だったけれども、この物語では、社会で
働くからにはコストを無視した仕事は出来ないし、妥協せざるを
えない現実を描いている。
ここに現場における作者のジレンマが表現されているように感じた。
僕達の仕事でも、納期を守るためだったり、コストが抑えるため
理想を捨てて、代替策を検討する事はよく有るのでかなり
共感できた。
もっと時間や予算があれば良い物が作れるのに…。
そんな想いを抱いて仕事をしている人、少なくないだろう。
だからこそ、次はもっと理想的な仕事が出来るように努力する。
それが会社や業界全体の発展に繋がっていくんだろう。
ゲーム業界に興味のある人、これから社会に羽ばたく人、
仕事への情熱を忘れかけている人にオススメの一冊。