- おもひで屋 (ハルキ文庫)/上杉 那郎
- ¥680
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甲子園への道を断たれ、同時に母までも失い、
失意と絶望の中にいた素晴のもとへ「想い出チケット」なるものが
届けられた。
このチケットがあれば、「想い出」を手に入れられるのだという。
失うものが何もない素晴は「想い出チケット」に記された場所へと
向かうのだったが…。
小松左京賞作家が描く、切なくて、心温まる感動のストーリー。
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珍しい(と思う)タイムスリップ+野球というストーリー。
タイムスリップ先は素晴の生まれた19年前。
僕も十分に知っている時代だ。
タイムスリップもののお約束はしっかりと備えている。
仕掛けとか伏線とか。
スポーツの世界は日進月歩という事で、20年先の技術、それも
トップクラスの実力をそなえるプレイヤーが過去で規格外の
活躍が出来るのも十分納得の出来る話だ。
まぁ、現代においてもトップレベルの素晴くんだけど。
カットボールとか見たことない球種を初見でジャストミートは
出来無いよなぁ、当時の球児…。
時の番人的なおもひで屋が過去を変えることは出来無いと
断言してるので、読者目線としてはどうやってその歴史が
生まれたかという過程に集中できる。
当事者である素晴は歴史に抗おうと必死だったけど。
どんなに頑張ろうとも変えられないであろう歴史に
ヤキモキする感覚、無力感もあるけど。
作中に何度も登場する「バックトゥザフューチャー」みたいに
可変型の時間の流れではないのがミソ。
最後の展開は面白かった。
作中、最大の謎だった父、竜太失踪の謎が明かされて、
全ての伏線が回収される爽快感。
と共に残酷で厳しい運命に対する悲壮感も。
でも最後の最後は父親も母親も穏やかな
気持だっただろうから救いのある物語だ。