砂漠 | つれづれログ

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色々な事を徒然なるままに書いていこうと思います

砂漠 (新潮文庫)/伊坂 幸太郎
¥780
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入学した大学で出会った5人の男女。
ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、
超能力対決…。
共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、
それぞれ成長させてゆく。
自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて
手探りで先へ進もうとする青春時代。
二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、
爽快感溢れる長編小説。

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さすが伊坂さん。
面白い小説を書くなぁ。

まずは上記あらすじの5人を紹介。

主人公の北村。
淡々とした性格で頭が良く、カッコいい(合コン相手の女の子談)。
冷血人間的な側面も(彼女である鳩麦さん談)。

ヤマセミのような髪型の鳥井。
ヤマセミのイメージがはっきりしてなくて、ググってみたらそこには想像
通りの姿の鳥が(笑)。
女遊びが盛んなブルジョア。

陽だまりにいる雰囲気を持つ南。
スプーン曲げや、物を動かす超能力を持つ。

クールビューティな東堂。
告白して撃沈する男子学生多数。

解説の人いわくキモオタな西嶋。
とにかく規格外の男…。

この5人を中心とした大学生活の中の色々な出来事を描いた青春物。

解説の人も書いてたけど、西嶋の個性が輝きまくっている。
一見ウザいんだけど、物凄くエネルギッシュで努力家でもあり、
まっすぐで不思議な魅力のある男。
東堂が惚れるのも無理ないよなぁ。

その個性は万人受けする性質の物ではなく、それが原因で
疎まれていた過去もあるんだけど、北村達の仲間の中には
自然と受け入れられるのが良かった。
そのせいか読んでいるこちらも、自然に馴染んでくる。


読んでいて印象的だった一文。
「なんてことは、まるでない。」

この文の前の数行の展開を裏切る一文で、物語の中に数カ所
登場する。

初登場時にはなんだこりゃ感が強かったけれども、西嶋の個性と
同様、不思議と馴染むし、それがあってこそのこの作品とさえ思える。

鳥井の身に降りかかった事件は衝撃的だったけれども、
最後にリベンジする展開は良かった。
分かりやすい伏線があったので余計に。
鳥井、カッコ良かったなぁ。


最終の卒業式での学長の話。
これが良かった。
人間にとっての最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のこと。
まさにこの作品にピッタリの言葉だし、事実そうだと思う。

やっぱり仲間がいてこそ、面白く楽しい時間が過ごせるものだ。
それで成長できる自分もいる。
僕は友達が決して多くはないけど、だからこそ大事にしたいという思いが
最近になって強くなってきた。


更に学長の言葉。
学生時代を振り返って、あの時は良かったと逃げることは考えるな。
そういう人生を送るな。

う~ん、結構言っちゃうセリフなんだよなぁ。
あの頃は良かったとか。

僕はあまり思わないし、言わないようにしている面もあるけど、
学生生活こそ華みたいな風潮って強いもんなぁ。

学長が言うように、その人の行動次第だと思うんだけど。
色々と諦めて流され疲れると、過去の思い出がより美しく感じられて
しまうんだろうなぁ。

タイトルの砂漠とは厳しい社会の象徴。
作中の西嶋の「その気になれば砂漠に雪を降らすことだって
余裕でできる」という言葉が身に染みる。

そんな事出来っこないとは思わないけど、やるかやらないかで言うと
やらない自分。
仕事で感じる不満や疑問を抱えながら、結局は我慢する事が多い。
そんな人、他にも大勢いると思う。

やらないだけで、やってみたら出来ることも少なくないはず。
面倒に感じたり、失敗のリスクを恐れたりせず、やればできるという
思いで、とにかくやってみる事も時には必要だ。


物語は下の一文で完結する。
なんてことはまるでない、はずだ。

ここではかなりポジティブなニュアンス。
締め方としては最高にキレイで、愉快な終幕だった。