- 死神の精度 (文春文庫)/伊坂 幸太郎
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CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、
受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない
―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。
一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、
翌八日目に死は実行される。
クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。
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サラリーマン的に仕事を淡々とこなす「死神」千葉の物語。
死神というと近年では「デスノート」のリュークの印象が強いけど、
千葉は外見上は普通の人間。
もっともその外見は調査対象者によって変化するけど。
床屋が髪の毛を切るのが仕事なように、死神は1週間の間に対象者を
調査し、死の判定をするのが仕事。
「可」なら死亡、「見送り」なら生き残る。
ただ、ほとんどの場合は「可」が判定されるのだけど。
仕事でやってるだけで、死に対する関心は無いという。
このスタンスに面白みを感じた。
リュークもこれに近い傍観者的なスタンスだったと思うけど、
千葉は更に淡々と仕事をこなしている感じ。
ミュージックを楽しむついでに仕事をしている(笑)。
形としては短編集になっていて、それぞれ調査対象者が違う人物。
それぞれの章の調査対象者は、
①クレーム処理の仕事にうんざりしている女性
②弱きを助け、強きをくじくやくざ
③ふぶき中の洋館(クローズド・サークル)に閉じとめられた女性
④向かいのマンションの女性に恋する青年
⑤トラウマをかかえる人殺しの青年
⑥70歳で現役美容師の老女
といった感じ。
それぞれが全く違うシチュエーションで描かれていて人生色々。
全てが調査対象者の死までを描いている訳ではなく、千葉とその人物の
交流が主なお話。
「死」をドラマチックなものとして扱う訳ではなく、あくまでも
自然な物として扱っているのがポイント。
千葉はクールで知的な人物であるような印象だけど、実際は
人間界の事についてあまり詳しくなく、とんちんかんな受け答えも
なかなかユニーク。
⑤には「重力ピエロ」の主要な人物、落書きアーティストの「春」が登場。
といっても、解説を読んで初めて思い出したんだけど…。
パッと出の人物としてはキャラが立ってると思ってたんだよなぁ。
こういう仕掛けも伊坂作品の魅力で楽しい。
⑥は他のエピソードとの繋がりが面白く、「そうきたか~」という感じ。
100%雨男の千葉が初めて青空の下に立つシーンは、説明できない
感動があった。
そして、老女のセリフが印象的。
死ぬのは怖いけど、周りの人間が死ぬのはもっとつらい。
だから最悪なのは死なない事。
長生きすることで周りが死んでいくから。
そしてやり残した事もあるかもしれないけれど、それも含めて
納得かもしれないと言う。
う~ん、なるほど。
生きていく上では色々な妥協や選択がある訳だから、やり残した事が
無い人生を送るのは非常に難しい事だと思う。
だから、そういうのも含めて自分に納得のいくような毎日を
送っていけば、比較的納得のいく死を迎えられるのかもしれない。
まぁ、それも結構難しい事かもしれないけれど、心がけていけば
随分違ってくるんじゃないかと。
やっぱり伊坂作品は面白いなぁ。