第45回 代表曲と売れた曲は一致するのか
渡辺美里
レベッカ、中村あゆみといった女性ボーカルによる新しい波が出てくるタイミングで注目され、長きにわたってヒット曲を出し続けた渡辺美里。小室哲哉、岡村靖幸、大江千里、伊秩弘将、佐橋佳幸といった作曲家と組んだ作品が多く、それらがヒット結び付いています。今回は渡辺美里の売上と代表曲との相関をみてみましょう。
【プロの作詞でティーンの代弁者として売り出す】 1985~1986年
「I’m Free」「GROWIN’ UP」「死んでるみたいに生きたくない」
「My Revolution」「Teenage Walk」
5thシングルまでは作詞をプロの作詞家が行っていて、まずは売り出すためにプロの力を借りて軌道に乗せようという感じだったのではないでしょうか。まだ10代でデビューということで、10代の女の子の叫びとか悩みとかそんなものを歌詞にしているものが多く、そのあたりは十分に戦略的なものを感じさせます。そんな中で「My Revolution」が大ヒットし、一躍注目の存在になったわけです。
【街の中でひとり悩み頑張る女性の思いを歌う】 1986~1988年
「LONG NIGHT」「BELIEVE」「IT’S TOUGH」「悲しいね」
「恋したっていいじゃない」「センチメンタルカンガルー」「君の弱さ/10years」
6thシングルからは自身が作詞を行うようになり、20代前半の女性のより素直な思いというものが歌われるようになります。「LONG NIGHT」「BELIEVE」「悲しいね」「君の弱さ」と、都会の冷たい街並みの中で踏ん張って生きているような秘めた力強さを感じる作品が、この頃は多かったように思います。期待に応えようと頑張って詩を書いている印象も受けましたが、出す曲出す曲みんなヒットで、シングルチャートの上位の常連になっていきました。
【夏&等身大の恋&ノスタルジーが1つの柱に】 1989~1990年
「ムーンライトダンス」「すき」「虹をみたかい」「サマータイムブルース」
「恋するパンクス」「Power」
この頃になると作詞にも慣れ、メッセージ色の強い作品ばかりでなく、肩ひじをはらずに、力の抜けた等身大の恋を歌った作品が多くなってきた印象です。季節感が強く出ていて、それでいてあの頃を振り返って懐かしむようなノスタルジーもあり、歌詞で情景が浮かんでくるような作品が特徴的になってきます。特に夏を歌ったものがこの時期には多く、「ムーンライトダンス」「すき」「サマータイムブルース」「Power」は夏の情景が描かれていて、渡辺美里の大きな軸となっていきます。
【春夏秋冬季節感のある作品が続く1】 1991~1992年
「卒業」「夏が来た!」「クリスマスまで待てない」
「My revolution 第2章」「泣いちゃいそうだよ」「メリーゴーランド」
夏の情景を中心に描いていたのが、より季節感に幅が出てきたのがこの時期。「卒業」は春を歌い、「夏が来た!」「泣いちゃいそうだよ」は得意の夏ソング、「クリスマスまで待てない」ではスキー場の雪景色を描きと、その時期に合わせた作品を投入してきています。その間に「My Revolution第2章」ということで、自分としての第2章が始まるという意志をここで示したのでしょう。セールス的にも引き続き安定していました。
【春夏秋冬季節感のある作品が続く2】 1993~1994年
「いつか きっと」「BIG WAVEやってきた」「真夏のサンタクロース」
「チェリーが3つ並ばない」
シングルチャートのトップ10常連でい続けた最後の時期がこの頃。相変わらず季節を重視した作品が続き、得意の夏ソング「BIG WAVEやってきて」「真夏のサンタクロース」に加え、冬の終わりから初春を描いた「いつか きっと」、そして「チェリーが3つ並ばない」では♪春も夏も秋もかじかむ冬の日にも と、とうとうオールシーズンをもりこんじゃってます。
【精神的な愛への移行】 1995~1997年
「シンシアリー」「世界で一番遠い場所」「My Love Your Love」
「一緒だね」「夏の歌」
自身の年齢もあがってきて、歌詞の内容もより深みのある精神的な愛を感じる内容に変化してきたのがこの時期。「My Love Your Love」では初めて単独作曲(「真夏のサンタクロース」は共同での作曲)にも挑みました。ただセールス的には陰りが見え始め、トップ10には届かなくなってきたのもこの頃でした。
【若者の代表から大人のシンガーへの移行】 1998年~
「素顔」「もっと 遠くへ…」「夏灼きたまご」「12月の神様」など
ヒットを連発していたアーティストがそのセールスを下降させる、「次のステージへ」という表現をちょくちょく使っているのですが、長年にわたってヒットを出し続けた渡辺美里にもその時期がやってきました。懐メロ歌手として割りきるも有りなのですが、かつてほどではないにしろ、コンスタントに新曲を出していきますので、あくまでも現役の歌い手なんでという意志は感じられるその後の活動ではあります。その中で2005年になって初めて紅白歌合戦に出場したのは1つのトピックでした。
■売上枚数 ベスト5
1 My Revolution44.5万枚
2 いつかきっと 28.3万枚
3 サマータイムブルース 26.3万枚
4 恋したっていいじゃない 24.6万枚
5 卒業 23.2万枚
上位5曲が特定の時期に偏っておらず、散らばっているというのが渡辺美里のチャート推移の特徴です。1位の「My Revolution」が1986年、2位の「いつか きっと」が1993年と7年の間隔があり、3~5位が1988年、1990年、1991年と適度に間隔を置いていて、このあたりから息の長いアーティストであったことがうかがえます。
■最高順位
1位 … My Revolution、虹をみたかい
2位 … BELIEVE、IT’S TOUGH、悲しいね、恋したっていいじゃない、
ムーンライトダンス、サマータイムブルース、卒業、My Revolution-第2章-
1位は2曲しか獲得していないのに、2位は8曲で獲得。3位がなく、4位も1曲であることを考えると、ことごとく何か別の1曲に1位を取られ続けてきたというタイミングの悪さがあったのかもしれません。
■代表曲
1 My Revolution
・
・
2 10years、BELIEVE、サマータイムブルース、卒業、夏が来た!
渡辺美里の場合は圧倒的に「My Revolution」で次点以下はどんぐりの背比べといった感じ。これだけヒット曲があるにも関わらず、My Revolutionの存在が強すぎて、他の作品が隠れてしまっています。次点以下はファンの人にとっては10yearsが強そうですが、シングルの扱いがカップリングでちょっと弱く、一般的には他の曲があがりそう。上記以外にも、虹をみたかい、恋したっていいじゃない、クリスマスまで待てない、いつかきっとなどを代表曲の1つとしてあげられる方もいて、やはりどんぐりのようです。テレビ等で紹介されるとき、たまには別の作品にスポットを当ててほしいものです。
■好きな曲 ベスト5
1 悲しいね
2 いつか きっと
3 サマータイムブルース
4 世界で一番遠い場所
5 ムーンライトダンス
好きな曲が多いのですが、絞ると上位はこんな感じです。「悲しいね」は冬の寂しさが染み入って、発売当時めちゃめちゃはまっていました。6位以下「真夏のサンタクロース」「BIG WAVEやってきた」「夏が来た!」となりますが、「サマータイムブルース」と併せて、定番の夏曲はやっぱり好きです。
渡辺美里の場合は「My Revolution」の代表曲としての存在感が圧倒的なので、次点以降はあまり考える必要がなさそう。よって
結論:一番売れた曲が圧倒的一番の代表曲
ただ、繰り返しになりますが、他の曲にももう少しスポットを当ててほしいなとは思います。