第20回 代表曲と売れた曲は一致するのか
岩崎宏美
歌唱力抜群のアイドルから本格的なシンガーへと少しずつ変貌していく過程で多くのヒット曲を送り出してきた岩崎宏美。果たしてその代表曲とセールスの因果関係は?
【阿久悠&筒美京平が歌唱力抜群のアイドルを後押し】 1975~1977年
「二重唄(デュエット)」「ロマンス」「センチメンタル」「ファンタジー」
「未来」「霧のめぐり逢い」「ドリーム」「思い出の樹の下で」
オーディション番組「スター誕生」出身ということで、デビュー時からある程度の知名度があったわけですが、デビュー2曲目の「ロマンス」が爆発的ヒットととなり、以降8枚目のシングルまではすべて作詞阿久悠、作曲筒美京平のコンビでヒットを連発します。歌唱力には当時から定評があり、1970年代のアイドルとして、1位1位2位2位という並びは、ピンクレディーを除くと、かなり突出した成績といえるでしょう。
【抜群の歌唱力で幅広い楽曲に挑戦、安定した地位を確立】 1977~1980年
「悲恋白書」「熱帯魚」「思秋期」「二十才前」
「シンデレラ・ハネムーン」「万華鏡」「女優」など
9枚目のシングル「悲恋白書」で初めて筒美京平が外れると、それ以降は作品毎に作曲家を変えていろいろなタイプの曲に挑戦していくようになります。さらに15枚目「さよならの挽歌」では作詞から阿久悠が外れ、歌詞の世界もひとつ大人のシンガーになるための道のりを進んでいくことになります。ただセールス的には大ヒットがなく、オリコン順位は10~20位に落ち着くことが多い時代でした。
【アイドルから大人のシンガーへ】 1980~1985年
「摩天楼」「すみれ色の涙」「檸檬」「聖母たちのララバイ」「家路」「橋」「決心」など
この頃になると完全に大人のシンガーという存在に成長し、「恋待草」「すみれ色の涙」「れんげそうの恋」の草花三部作、そして「聖母たちのララバイ」「家路」「橋」テレビ火曜サスペンスドラマの主題歌に定期的に起用されることになると、そこからまた何曲かのヒット作が生まれていくことになります。特に「聖母たちのララバイ」は「ロマンス」以来の大ヒットとなり、再び岩崎宏美の存在を最大限にアピールすることになりました。
【ヒット戦線からは後退し次のステージへ】 1985年~
「月光」「好きにならずにいられない」「愛という名の勇気」など
1980年代後半になると、セールス面では衰えが顕著になっていき、ヒットチャートの上位に食い込んでくるようなことはなくなっていきます。そしてヒット歌手としての役割から次の段階へと歩みを進めていくことになるのです。
■売上枚数 ベスト5
1 ロマンス 88.7万枚
2 聖母たちのララバイ 80.4万枚
3 センチメンタル 57.3万枚
4 思秋期 40.4万枚
5 ファンタジー 39.3万枚
デビュー直後で勢いのある時期、2nd~4thシングルがベスト5に3曲入っていますが、一方でセールス的には落ち着いてきた時期に出した「思秋期」さらに「聖母たちのララバイ」が楽曲の力によって上位に入っています。
■最高順位
1位 … ロマンス、センチメンタル、聖母たちのララバイ
2位 … ファンタジー、未来
1位、2位の獲得曲はほとんどがデビュー年とその翌年の作品である中、「聖母たちのララバイ」が7年ぶり3曲目の1位を獲得しているのが際立ちます。
■代表曲
1 聖母たちのララバイ
2 ロマンス
3 シンデレラ・ハネムーン
4 思秋期
上位はこんな感じでしょうか。懐かしの歌などで一番紹介されることが多いのは「聖母たちのララバイ」という印象。セールス1位の「ロマンス」よりも楽曲の力が強いように感じます。3位の「シンデレラ・ハネムーン」はコロッケの物まねの印象が強いですが、おそらくその影響で岩崎宏美の一つの象徴のような存在の楽曲になっているのではないでしょうか。
■好きな曲 ベスト5
1 檸檬
2 思秋期
3 熱帯魚
4 シンデレラ・ハネムーン
5 すみれ色の涙
存在としては目立たない曲ですが、個人的には「檸檬」が好きです。次が人気曲「思秋期」でしょうか。「聖母たちのララバイ」なんかはあちこちで聴き過ぎて飽きてしまった感はあります。
セールスダントツの「ロマンス」「聖母たちのララバイ」は代表曲で間違いないですが、「ロマンス」以外の初期の1位、2位獲得曲よりも、売上平凡ながら別の要素も加わって代表曲になった「シンデレラ・ハネムーン」や、楽曲の力で支持を得た「思秋期」の方が、今時点の存在感は大きいように思います。
結論:ダントツに売れた2曲は代表曲に違いないが、さほど売れなかった曲の中にも代表曲に近い認識される作品もあるにはある