80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.361

 

夏の終りのハーモニー 井上陽水・安全地帯

作詞 井上陽水

作曲 玉置浩二

編曲 星勝、安全地帯、中西康晴

発売 1986年9月

 

バックバンドを務めていたことが縁で実現した、大御所と絶好調バンドとのコラボによる文字通り美しいハーモニー

 

 

 当時の安全地帯はヒット曲連発で勢いに乗っている時期。一方の井上陽水はすでに大御所でしたが、しばらくシングルのセールス面では停滞していたところから、1984年10月発売の『いっそセレナーデ』がヒット、息を吹き返した感があるようなそんな頃。かつて井上陽水のバックバンドを務めていたというのは当時も有名な話で、それがここでコラボという形が実ったのが『夏の終りのハーモニー』でした。

 

 作詞を井上陽水、作曲を玉置浩二という分担で行った『夏の終りのハーモニー』はオリコン最高6位、売上10.8万枚ということで、まずまずのヒットとなりますが、なんといってもこの作品の一番のポイントは、井上陽水と玉置浩二の文字通りの見事なハーモニーにあるでしょう。二人の声質が実にマッチしていて、聴いていて実に心地よいのです。ガチャガチャとうるさいテクニックに走ったような楽曲ではなく、とにかく歌を聴かせるためにシンプルな作品に徹しているような印象はあります。

 

 井上陽水の歌詞と言えば、独特の感性で凡人には容易に理解できないような詩を紡いでくるのですが、この『夏の終りのハーモニー』については、ほとんど奇抜な表現はせずに、ノーマルな言葉を重ねてまとめあげていて、それがかえって新鮮にさえ感じられます。自分だけの作品ではないというのはあるのかもしれませんが、極端に陽水色をつけることはせず、重複になりますが、シンプルに玉置浩二と井上陽水の歌を楽しんで聴いてほしいといった意図があったのではないでしょうか。ただその中にも、よくよく歌詞を読んでみると、やはり一筋縄でいかない不思議な陽水の世界感はきっちりと残しているのですよね。

 

《今日のささやきと 昨日の争う声が 二人だけの恋のハーモニー》

《夢もあこがれも どこか違ってるけど それが僕と君のハーモニー》

今日のささやきと昨日の争う声という対照的なものを示しておいて、それが不思議と調和しているのだと。ちょっと違う君と僕だけれど、それが見事に調和しているのだと。一見反発しそうな対照的な組み合わせでも、それが美しいハーモニーを奏でてくれるという、不思議さ美しさとを感じさせてくれるようなフレーズです。

《誰よりもあなたがただ好きだから ステキな夢あこがれを いつまでもずっと 忘れずに》 

《夜空をたださまようだけ 星屑のあいだを揺れながら 二人の夢 あこがれを

いつまでも ずっと 想い出に》

《真夏の夢 あこがれを いつまでもずっと忘れずに》

とありますが、この作品のキーワードはどうやら「夢」と「あこがれ」であろうことに気づきます。「夢」と「あこがれ」という言葉がセットになって、この歌の合計4か所で出てくるのですが、そのいずれもが同じフレーズのリピートではなく、それぞれ表現を変えて使われているのです。何気なしに聴くとこのあたりは、一見よく歌の中で使われるような言葉たちなのでスルーしてしまいそうなのですが、意識して歌詞を読んだときに、気になってくるところなのです。恋する二人の描く夢や憧れとはいったいどんな夢や憧れなのか、夏の夜空をさまよう夢や憧れとは?そんな風に1フレーズ1フレーズ考えながら追っていくと、シンプルに思えた歌詞が、結局は凡人には理解できない世界の中にあることに気づく次第でありました。

 

 今や井上陽水だけでなく、玉置浩二も大御所的な存在になっており、それだけに余計にかつての二人の「デュエットソング」が貴重な作品に感じられてきます。この作品の持つ価値とか持つ意味の大きさというものが、実はヒットしていた当時より大きくなっているのではないでしょうか。実際にたびたび音楽番組などで紹介されたり、一部が流されたりということもあり、今でも歌い継がれ聴き継がれている曲になっているというのを感じます。ただそれは単に大物同士のコラボ企画だからというだけではなく、やはりそこにはひとつの楽曲としての魅力があるからこそだと思うのです。実際発売当時は話題性から売れても、今も名曲として歌い継がれている大物同士のコラボソングって少ないのですよね。そんな意味からも井上陽水と玉置浩二(安全地帯)による『夏の終りのハーモニー』は貴重な作品と言えるような気がするわけです。