80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.350

 

アンダルシアに憧れて  真島昌利

作詞 真島昌利

作曲 真島昌利

編曲 真島昌利

発売 1989年10月

 

 

マッチとの競作になり話題になったソロとしての第一弾シングルは、まるで映画を観ているかのような物語性の強いハードボイルド・アクション・ソング

 

 THE BLUEHEARTSのメンバーとして活躍していた真島昌利がソロとして初めてリリースしたシングルが自身作詞作曲編曲の『アンダルシアに憧れて』です。この曲は近藤真彦も翌11月に30thシングルとして発売し、競作という形になりました。同じ歌でもそれぞれに味わいの異なる作品となった『アンダルシアに憧れで』ですが、先にリリースした真島昌利盤がオリコン最高13位・売上8.1万枚、近藤真彦盤が最高9位・売上9.3万枚(マッチにとっては3作ぶりのトップ10入り)と、やや近藤盤が上回ったものの、双方ともわりと近い成績でスマッシュヒットとなりました。

 

 近藤真彦盤はじっくりねちっこくといったボーカルで、アレンジもどちらかというと重厚な感じに対し、真島昌利盤はどこか粗野で荒々しいボーカルで、アレンジは近藤盤よりはキレとスピード感がある印象。それぞれに味わいがあって、好みも別れるところでしょうが、歌い手のキャラクターが生かされたものになっていたのではないでしょうか。

 

 この曲の特徴はなんといっても、まるで映画を観ているような、物語性の強い歌詞にあります。冒頭で

《バラをくわえて踊ってる 地下の酒場のカルメンと 今夜メトロでランデブー》

と、この主人公はダンサーのカルメンとのデートを控え

《ダークなスーツに着替えて ボルサリーノをイキにきめ いかすクツをはいた》

と、一張羅(?)に着替えて出かけようとしていたまさにその時でした。

《受話器の向こう側でボス 声をふるわせながらボス ヤバイことになっちまった

 トニーの奴がしくじった》

《立ち入り禁止の波止場の 第三倉庫に8時半》

とボスからの呼び出しがかかったのです。ここで、主人公は何やらの組織に属していることがわかります。組織のボスの命令は絶対であり、カルメンとのデートはあきらめざるを得なくなった主人公。

《誰か彼女に伝えてくれよ ホームのはじで待ってるはずさ ちょっと遅れるかもしれないけれど

 必ず行くからそこで待ってろよ》

と、伝えることができないカルメンへのメッセージを心の中で叫び続けて、序章が終わっていくのです。ほんと、これだけでも物語の続きが気になって仕方なくなりませんか?

 そして戦いの準備に移る主人公。

《がくぶちのウラの金庫に 隠したコルトをとりだす》

《スタッガリーの頭に こいつをブチ込んでやるさ》

 どうやら主人公の組織はギャング団の類であることがわかります。銃を手に決戦へ臨む一味。不穏な空気が漂い始めたところで、2コーラス目からは第3倉庫に場所を移していくのです。

 

《怪しい気配に気づくと オレたちは囲まれていた》

《暗闇からマシンガンがあざけるように 火を吹いた ボルサリーノははじけ飛び

 コンクリートにキスをした》

と、敵に囲まれ銃で撃たれた主人公は、地面に倒れたのです。しかも倒れた中でも心に想うのはカルメンのこと。

 《誰か彼女に伝えてくれよ ホームのはじで待ってるはずさ ちょっと遅れるかもしれないけれど

 必ず行くからそこで待ってろよ》

そして

《うすれていく意識の中 オレはカルメンと踊った アンダルシアの青い空

 グラナダの詩が聞こえた》

で終わっていくのです。なんともせつない結末じゃありませんか。彼が撃たれて意識が遠のいていくその時間、カルメンは彼を駅で待ち続けている…。まさに映画のラストシーンそのものといっていいでしょう。THE BLUE HEARTSの歌の世界とは全く違うドラマティックなストーリーをソロデビュー曲として用意してきた真島昌利。これを聴いてやはり只者ではなかったと、改めて認識させられる、『アンダルシアに憧れて』はまさにそんな一曲だったのでした。