80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.343

 

teardrop  後藤久美子

作詞 来生えつこ

作曲 筒美京平

編曲 武部聡志

発売 1987年3月

 

 

13歳にして完成されたルックスで社会的なブームを引き起こした元祖美少女ゴクミの歌手デビュー曲

 

 1986年に女優デビューした後藤久美子は、すでに12歳にして完成されたルックスで話題を呼び、美少女ともてはやされることになります。この美少女ブームはこの後社会的な動きにもなっていくわけですが、まさにその火付け役がこの後藤久美子でした。ニックネームもそれまでのアイドルの可愛いそれとはちょっと違う感じで、姓と名の頭をくっつけた“ゴクミ”という愛称で呼ばれ、この姓と名の頭を取ったニックネーム(エンクミ、ゴマキ、タカミナ、コジハル、フカキョン…)が女性アイドルやタレントのニックネームの一つの形になっていく、その最初がゴクミではないでしょうか(男性ではかなり以前からありましたが…それこそエノケンとか)。   

 

 さて、こうして若くて可愛い女性タレントの人気が出てくると、とにかく一度レコードを出してみようという動きになるのが80年代の常であって、ゴクミも当然のように歌手デビューの運びへとなるわけです。こうしてリリースされたデビュー曲が『teardrop』でした。作詞来生えつこ、作曲筒美京平、編曲武部聡志と作家も強力布陣で臨んだデビュー曲は、オリコン最高3位、売上7.3万枚という結果になりました。新人がいきなり3位というのは凄いことではあるのですが、当時のゴクミの勢いからすると、7.3万枚という売上はいまひとつという感は否めませんでした。

 

 そもそも歌手志向は強くなかったのはあるでしょうが、それ以上に、この強力作家陣にしては、正直なところ楽曲が地味だったということが大きかったように思います。本人のキャラクター上、可愛い可愛いした曲は似合わないということで、クールで落ち着いたものにしたかったのでしょう。曲もマイナー調でしっとりしたメロディーなのですが、それ以上に歌詞が抽象的で、今改めて読んでみても、結構難しいのですよね。13歳の少女の等身大の歌というよりは、どこか冷めた客観的な目線で少女である自分の成長を眺めているような、そんな感覚の歌詞で、ある意味聴き手に解釈を任されているようなものなのです。来生えつこらしく、どこかアンニュイな雰囲気を感じさせる言葉を多く使っているのですが、当時のゴクミに歌わせるには、いくらクールなイメージの美少女とはいっても、聴いている方からすると、華やかさがちょっと足りない感じがしました。もっと率直にいうと面白くない歌というのが私の当時の感想でした。当時の勢いからすると、別の選択をしていれば、もう少し売上を上乗せできたのではないでしょうか。

 

 歌手後藤久美子としては、この後もう一曲シングル『初恋に気づいて』(1988年1月)を発売しますが、オリコン最高10位、売上3.4万枚という結果で終わります。この曲は、歌詞の内容としてはデビュー曲に比べ、年齢相応のものにはなっていますが、曲調は相変わらずの地味な感じで(ちなみに高見沢俊彦作詞作曲)、あまり売れそうだなという印象は最初からなかったですね。そしてそれきりで歌手活動はスパッと切り捨てて、『男はつらいよ』シリーズをはじめとした女優業に専念していくことになりました。本人もあまり歌手であるということには興味はなかったのでしょうね。

 

 ただゴクミに続く1980年代終盤から1990年代前半に登場する美少女たちもみんな最初は歌手としてデビューするというのが一つの形になっていきます。小川範子(トップ10入り5曲)、坂上香織(トップ10入り3曲)、牧瀬里穂(デビュー曲30万枚超のヒット)、観月ありさ(トップ10入り8曲、最高34.4万枚)、宮沢りえ(オリコン1位獲得、紅白出場)と、みんなある程度歌手としての実績を残しています。そんな彼女たちと比べて、ブームの中心で社会的な取り上げられ方も大きかったゴクミが、歌手としてはいまいちだったというのは、本人の志向とか歌唱力とか以上に、戦略的にうまくいかなかったというのが大きかったのではないでしょうか。