80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.337

 

水の星へ愛をこめて  森口博子

作詞 売野雅勇

作曲 ニール・セダカ

編曲 馬飼野康二

発売 1985年8月

 

 

テレビアニメのガンダムの主題歌に起用されてスマッシュヒット、その後の80年代の不遇なアイドル時代を過ごすことを思いもしない森口博子のデビュー曲

 

森口博子といえば、井森美幸や山瀬まみらとともに、アイドルの身の振り方の新たな道をつけバラドルの先駆者の一人として語られる存在であります。それでいて歌手としても、紅白歌合戦に6回の出場を果たすなどの成功を収めています。しかしながらアイドルとしては売れなかったという鉄板のネタがお約束にもなっていて、売れなかったアイドルというイメージも定着しているのです。では本当に売れなかったのかというと、全く売れなかったというわけでもないのですよね。もちろん同期の南野陽子、浅香唯、斉藤由貴、本田美奈子、中山美穂らと比べると、アイドル歌手として成功したとはいえないのかもしれませんが、実は今回とりあげたデビュー曲『水の星へ愛をこめて』はオリコン最高16位、売上7.9慢枚と、新人のデビューシングルとしては上々のスタートを切ったのです。

 

 

『水の星へ愛をこめて』はアニメ『機動戦士Zガンダム』のテーマ曲に抜擢されたということが大きかったのは確かで、森口博子自身のアーティストパワーで売れた作品とは言いにくいのかもしれません。それが証拠に、2ndシングル『すみれの気持ち』はオリコン最高87位、売上0.4万枚と極端に成績が落ちています。ですから、アイドルとしてどんな作品も売り切る力は確かになかったとはいえるでしょう。ただ運も力ですし、事務所の存在も力、デビュー曲がそこそこヒットしたというのは事実ですから、それほど卑下することもないのかなとは思います。もちろんネタとしてはそちらの方が面白いというのは間違いなくあるでしょうけれど…。

 

 そんなスマッシュヒットとなった『水の星へ愛をこめて』の作詞は当時絶好調の売野雅勇でしたが、作曲はニール・セダカとなっています。アニメがらみということで、なにかこだわりがあったのでしょうね。ガンダム関係では他に鮎川麻弥『Z・刻をこえて』もニール・セダカの作曲となっています。いずれにせよ、無名新人のデビュー曲としてはかなり力のはいった一曲だったといえるでしょう。歌唱力は問題なかっただけに、アイドルアイドルした感じは一切ない、ガンダムのテーマソングを歌うのにふさわしい歌い手ということで選ばれたのでしょう。

 

そして楽曲自体もまさに歌い手が顔を出さない作品になっているのです。歌詞をみると、第三者的な視点で、終始あなたとそのあなたを探している人のことを歌っていて、第一人称が出てこないのですよね。アニメ作品、それもガンダムのような壮大なSF作品のテーマソングとしては、これが正解なのでしょうが、アイドル歌手のデビュー曲として、自分のことが歌われていないというのは、ちょっと辛いところではないでしょうか。もっともっと自分を知ってもらいたい、私とはこんな女の子ですよと、いわば自己紹介的な一曲になるところが、一切自分を完全に引っ込めてしまった歌になっているのですから、なかなか森口博子という新人を知ってもらうには厳しかったでしょう。結果的に『水の星へ愛をこめて』のスマッシュヒットは歌っている森口博子の人気をあげる効果はほとんどなかったのでした。

 

こうして2ndシングル以降は長い低迷期、売れないアイドルの時期が続いていくわけですが、冒頭に述べたようにバラドルとして頭角を現すことで認知度が上がり、再び楽曲に恵まれたタイミングで、今度は歌い手が見えるヒットへと結びついたのです。再びガンダム作品のテーマソングとなった9thシングル『ETERNAL WIND』(1991年2月)がオリコン最高9位・売上28.5万枚となり、『スピード』(1992年9月)が15位・10.3万枚、『ホイッスル』(1993年6月)が10位・11.6万枚、『もっとうまく好きと言えたなら』(1995年3月)が17位・28.0万枚と断続的にヒット曲も出し、歌手としても成功を収めたわけです。バラドルとして成功したあとで、歌手としてもヒットを出したという点では、ライバルとなった他のバラドルとは一味違うところも見せられたのではないでしょうか。