80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.333
風のノー・リプライ 鮎川麻弥
作詞 売野雅勇
作曲 筒美京平
編曲 戸塚修
発売 1984年7月
アニソンがヒットチャートに顔を出すようになり、それを歌う歌手にスポットが当たるようになった80年代前半、その代表的存在である鮎川麻弥のデビューシングル
今でこそアニソンを専門に歌う歌手やアーティストが注目されることは当たり前になっていますが、1970年代ごろは、アニソンを専門に歌う歌手はどちらかというと陰の身という感じで、なかなか当人が表に出るということは少なかったように思います。男性歌手では子門真人、佐々木功、水木一郎などがよくアニメ番組のテーマソングを歌っていましたが、彼らの名前が前面に出てくるようなことは稀で、オリコンのようなヒットチャートに彼らの歌う曲が顔を出すということはまずありませんでした。もちろん子門真人には『およげ!たいやきくん』という歴史的大ヒット曲がありますが、この曲はアニソンというジャンルとは違いましたからね。とにかく、アニメの主題歌と、いわゆるヒット曲とはまったく別ものというところがありましたね。
それが80年代に入り、アニメの映画やテレビ主題歌がヒットチャートに顔を出すようになっていくのですが、この頃からアニメの主題歌のつくり方が少しずつ変わってきたように思います。それまではアニメのタイトルや主人公を直接連呼するような、いかにもアニメの歌だよーという感じの主題歌ばかりだったのですが、歌詞の内容で作品の雰囲気を表現するような曲が増えてくるのです。1980年代前半では、井上大輔『哀・戦士』(1981年)、H₂O『想い出がいっぱい』(1983年)、杏里『CAT’S EYE』(1983年)、飯島真理『愛・おぼえていますか』(1984年)、岩崎良美『タッチ』(1985年)といったアニメの主題歌がヒットしていくわけです。
その中で鮎川麻弥もデビュー曲『風のノーリプライ』がアニメ『重戦機エルガイム』主題歌に起用されたことで、オリコン最高17位、売上9.7万枚というヒットになったのです。これがデビューであった鮎川麻弥は当然無名の存在ということで、井上大輔、岩崎良美や杏里などの実績がある者に比べると当然ハンデがあったわけですが、それでもアニメ作品の主題歌に起用されることで、ある程度のヒットに結びつくんだということを示したわけです。
さらに特筆すべきは、このあとも鮎川麻弥は幾度となくアニメのテーマ曲をシングルリリースしていくことになるのです。『Z・刻をこえて』(1985年2月、この曲は最高15位を記録)、『星空のBELIEVE』(1985年3月)、『夢色チェイサー』(1987年1月)となどがそうですが、これらによって、アニソンシンガー的なイメージもついていくことになりました。今ではけっして珍しくないアニソン歌手ですが、自らの名前を前面に出して何曲もアニソンレコードを出す女性歌手というのは、当時としては珍しいという感じはありました。
さて『風のノーリプライ』ですが、作詞売野雅勇、作曲筒美京平という超強力コンビということで、このアニメに対してか、或いは鮎川麻弥のデビューに対してか、とにかく力が入っていたことがわかります。当時の鮎川麻弥ですが、見かけはちょっと色黒なセクシー系お姉さんという印象で、歌うとくせがない伸びのある声が魅力といったところで、メディアへの露出はそれほど多い感じではなかったです。それでもいきなりトップ20に入る売上になったということは、アニメの影響も強いのでしょう。私は『重戦機エルガイム』というアニメは観たことはないですが、当時ガンダムシリーズなど、ロボットアニメが人気になってきていて、実際に『Z・刻をこえて』『星空のBELIEVE』はガンダムシリーズのテーマソングでしたからね。
『風のノーリプライ』の歌詞をみてみると、直接的に『重戦機エルガイム』を示すような言葉はなくて、《宇宙(そら)の迷い子たち》《星屑の眠る海》《流星が降るたび生命が生まれる》《愛道しるべにして》とあくまでも雰囲気で「らしさ」を表現している感じで、これによって一般のヒットチャートにも進出してくるようになり、今に繋がってくるのでしょうね。そしてメロディーも明るさと哀愁との両面を感じさせるいわゆる売れ線のメロディーで、アニメを知らなくても、たまたまこの曲を知ってレコードを買った人もかなりいたのではないでしょうか。
この手のアニメとテーマソングの関係を方向づけた一曲として、同じ1984年にヒットした『愛・おぼえていますか』とともに『風のノーリプライ』はその売上以上に、意味のある一曲だったと思うわけです。