80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.331

 

ハートのIgnition  福永恵規

作詞 秋元康

作曲 伊藤銀次

編曲 大村雅朗

発売 1986年10月

 

 

色黒でボーイッシュなおニャン子11番のセカンドシングルは、伊藤銀次作曲のかっこいい仕上がりも、おニャン子の連続1位はストップ

 

 おニャン子クラブ会員番号11番の福永恵規は色黒でボーイッシュなイメージの個性的なメンバーで、1986年5月『風のインビテーション』でソロデビューを果たしました。その時期のおニャン子クラブは出す曲出す曲みんな初登場1位と、毎週毎週変わりばんこでオリコン首位を獲得している頃で、福永恵規もそれにきっちり乗っかって『風のインビテーション』で初登場1位を獲得しました。このデビュー曲は明るくポップな曲で、売上も17.6万枚とそこそこのヒットとなったのです。しかしながら今回取り上げるのは、オリコン最高2位で終わったセカンドシングル『ハートのIgnition』で、なぜなら私個人としてはこちらの曲の方が気に入っていて好きだからです。

 

 ただこの最高位2位というのは、おニャン子関連のシングルがすべて1位を続けていた当時にしては、結構衝撃的な出来事でもありました。1986年は2月に国生さゆり『バレンタイン・キッス』が初登場2位に終わっていますが、それ以降半年以上はソロデビュー組もユニット組も全体でのシングルもすべて1位を記録していて、まさにこの世の春を謳歌していたおニャン子たち。ただいつかは終わるともみんな分かっていて、果たして連続1位を止めるのは誰かというのも、密かな注目の的だったのです。そして演歌の城之内早苗や色物ユニットのニャンギラス、吉沢秋絵の3枚目もクリアしたところで、福永恵規の2ndシングルがそのタイミングに当たってしまったというわけですね。これは後からみると、やはりおニャン子の全盛に陰りが見え始めたきっかけだったととらえられるのです。

 

 まあ、そんなタイミングでのシングル発売になってしまった『ハートのIgnition』でしたが、曲自体は前作とは違って、クールでかっこいい仕上がりのドライブソングになっています。ただドライブソングとはいっても、スカッと爽快、飛ばしていこうぜ的なリゾートっぽい感じではなくて、星空の下でどうなってもいいからあなたがどこかへ連れて行ってという、愛の逃避行的なドライブソングといった趣です。そしてこの曲を作曲したのが伊藤銀次なのですよね。おニャン子に伊藤銀次が曲を提供したというのはちょっと驚きました。1989年に始まったイカ天の審査員としての顔が有名なミュージシャンですが、アイドルに曲を提供するということがあまりイメージにありませんでした。これ以外の歌手への楽曲提供もちょくちょく行ってはいましたが、チャート上位に入るような曲は実は『ハートのIgnition』ぐらいなのですよね。その意味で『ハートのIgnition』は貴重な一曲だともいえるでしょう。そして冒頭に記したように、この曲が実にかっこよくて私は好きなのです。

 

《星のネオンが流れるFreeway 車のライト レザリウム》

《ハンドルを操るあなたが 長い夜追い越せば》

《バックミラーに街も消えて》

《サイドシートの窓を開ければ 風がナイフをつきつける》

《アクセルを踏み込んで》

夜の高速道路をとばす1台の車に乗っている私とあなた、そんな状況がくどいくらいにはっきりとわかります。そして

《この愛に火がついた Fire!》

《どこかに連れ去って 今すぐに》

《行き先なんて どこでもいいわ》

《もう2度と 戻れやしないと》

《ブレーキかけないで 振り切って》

《あなたとならば死んでもいいわ》

《友達にさえも言わないで 突然のエスケープ》

と、愛に燃え上がった二人が、何かから逃げて行き先を決めずに突っ走っていく様子が描かれているのです。この愛の逃避行感と伊藤銀次のメロディーが見事にマッチしているのです。ただこれが福永恵規に合っていたかというと、ちょっと微妙かもしれないのですが…。

 

 結果この曲はそれでもちょうど10.0万枚を売り上げて二けたは維持したのです。この後福永恵規は1987年1月に3枚目のシングル『僕達のRUNAWAY』を発売、これも最高2位ではありましたが、売上は5.5万枚と半減。いよいよ人気低下も顕著になっていき、もう一曲シングルを出して1988年にはあっさりと引退をしてしまいました。おニャン子の中では決して人気が高いというほどでもなく、忘れられがちな存在ではあるのですが、それなりにセールスもあったメンバーですから、こんなカッコいい曲も歌っていたこと、たまには取り上げられるといいななんて思っています。