80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.330
ありがとう 石坂智子
作詞 伊藤薫
作曲 伊藤薫
編曲 大村雅朗
発売 1980年6月
強力ライバル相手に新人賞を争いながら僅か1年ちょっとで引退した石坂智子の、たのきん出演ドラマの主題歌に起用されたデビュー曲
果たしてどれだけの人が石坂智子という名前を憶えているでしょうかというぐらい、パッと現れて当時の新人賞を争いながら、わずか1年2か月、シングル5枚をもって引退してしまった儚い芸能生活でした。デビューは1980年で、この年には田原俊彦、松田聖子、河合奈保子、柏原よしえ、岩崎良美とまあ、それはそれは豪華な面々が揃っていたので、新人賞争いという意味では、かなり過酷な年であったことは確かでしょう。
当時は東芝EMI歌謡タレントスカウトキャラバンというオーディションがあって、その第1回で優勝したのが石坂智子だったのです。ちなみに第2回は川島恵、第3回は桑田靖子と大内和美が優勝したのですが、メンバ的にはホリプロスカウトキャラバンあたりと比べると弱いですし、長くは続かなかったようですね。ただ大手のオーディションで優勝したということで、当時としてはかなり力は入っていたのでしょう。デビュー曲となった『ありがとう』は、当時人気爆発のたのきんトリオが出演した『ただいま放課後』の主題歌に起用されるということで、恵まれたスタートであったことには違いないでしょう。売上的にはオリコン最高40位ながら6.8万枚の実績をあげました。
当時は各テレビ局が音楽新人賞を用意していて、それがそれぞれのテレビ局の特別番組で中継されていたわけですから、新人賞にノミネートされ、その舞台で歌うことが知名度を上げる近道でもあったわけです。その中のいくつかには石坂智子も登場して歌っていたのを私も記憶しています。ただ2ndシングル『デジタルナイトララバイ』の方が賞レースではよく歌われていたような気がします。ちなみに『デジタルナイトララバイ』はオリコン最高72位とパッとしなかったです。
それで『ありがとう』に戻りますが、作詞作曲は伊藤薫。野口五郎の『19:00の街』の階で触れています。曲調としてはゆったりと聴かせる歌になっていて、アイドルの新人らしい可愛い曲でもなければ、元気でポップな曲でもなく、アイドルのデビューとしてははっきりいって地味です。ただ聴けば聴くほど味がでるような、けっして悪い曲ではありません。ただ周りのライバルたちが派手でインパクトのある歌を出している中ではあまり楽曲的に目立たない感はありましたね。タイトルも普通ですし。
どうもこの東芝EMI歌謡タレントスカウトキャラバンは、芸能プロダクションではなくてレコード会社が主催しているということもあって、ルックスやタレント性よりも歌唱力に重きを置いたオーデイションになっていたようで、石坂智子だけでなく前述の川島恵、桑田靖子も含めて、歌唱力には秀でたものをもっていたのは確かです。ですから、歌う曲もその歌唱力を生かせるような大人っぽい曲で勝負をかけていたようにうかがえます。石坂智子についてもそうで、次の曲『デジタルナイトララバイ』も『ありがとう』とはまったく違う曲調ではあっても、楽曲自体はさらに大人っぽいもので、石坂智子自身もそれをしっかり歌いこなしてはいました。ただ3人に共通して言えるのは、ルックス面ではアイドル歌手としては正直なところ弱かったというのもあって、結果的に歌手として成功を収めることはできませんでした。
それにしても見切りをつけるのも早く、1981年8月発売の5thシングル『北国へ』をもって18歳で引退してしまったということで、改めて芸能界の厳しさ、はかなさを認識させられますね。