80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.325

 

マイクラシック  佐藤隆

作詞 大津あきら

作曲 佐藤隆

編曲 チト河内、佐藤隆

発売 1984年5月

 

 

佐藤隆の産み出す、独特のけだるさを感じさせるメロディーが人々の耳に届き、自身最大のヒットを果たした代表曲

 

 佐藤隆は1980年4月『北京で朝食を』で歌手としてのデビューを果たしますが、しばらくの間は低迷。ところがレコード会社を変えての6枚目のシングル『マイクラシック』が一気に14.6万枚と売上枚数を伸ばしてスマッシュヒット、オリコンの順位も28位と一気にジャンプアップを果たしました。この曲は大丸のイメージソングということで、一般の人の耳に届く機会が多くなったことで多くの人の耳に触れることになり、ヒットに繋がったのでしょう。そしてこの頃から作曲家としても活躍の幅を広げていくことになります。

 

 佐藤隆といえば、なんといっても彼の作り出すメロディーラインにあって、どの曲も一聴して佐藤隆の作った曲だと分かる、独特のけだるさを感じさせるのです。佐藤隆の曲では『マイクラシック』の次のシングルでオリコン23位と自己最高位を記録した『カルメン』(1985年1月)もそうですし、他のアーティストへの提供曲では高橋真梨子『桃色吐息』、堺正章『二十三夜』、中森明菜『AL-MAUJ』、そして谷村新司と競作の『12番街のキャロル』と、いずれも佐藤隆節炸裂というほど、他の作曲家には真似できない、佐藤隆特有の倦怠感があふれ出てくるのです。

 

 この『マイクラシック』については、その佐藤隆独特のけだるいメロディーラインがCMによって初めて多くの人の耳に触れることになり、新鮮に聴こえたというのもあるのかもしれません。それが突然のヒットに繋がったのでしょう。当時ラジオでもヘビーローテーションでかかっていたように記憶しています。

 

 そしてこの曲、独特なメロディーだけでなく、大津あきらによる歌詞も含めてどこか謎めいた感じがいいのですよね。

《セリフを忘れた道化師のように あなたを見てる僕なのさ》

とただただ指をくわえて(?)あなたに見とれているだけの情けない男の僕に対して、

《乱れるよりもそのままで 裸足で踊るステップを》

《薔薇を噛む人 吐息を投げて 誘惑の糸 切りたがる》

《ワインカラーのくちびるの色 眠れぬ夜を焦すはず》

《アマンを演じる女豹のように あなたは甘いステップで》

ととにかく高嶺の花のごとく、大人の様相で踊り続ける女性…。この僕とあなたの対比が、強くセクシーな女と頼りなくダサい男という感じで、なんとも面白いではないですか。いったい二人の関係はどういうものなのか。ステージで踊る大人の色気ムンムンのダンサーと単なる観客の僕、或いは大人の遊びや恋のテクニックをなんでも知っている女性に対して奥手で何も知らない自分を比喩したものか、このあたりいろいろと想像させてくれるのも謎めいていていいですよね。それに次のシングル『カルメン』とも繋がっているようにも感じさせられますし。

 

 そもそもこのタイトル『マイクラシック』自体が謎めいているように思いませんか。日本語の中で使われる“クラシック”という言葉は、音楽にしてもアートにしても古典(的)という意味合いで使われることが多いのですが、ここではもちろんそうではないでしょう。女性を古典としてしまうと、おばあちゃんの踊る歌になってしまいます。では何でしょうといったところで、そもそも“クラシック”とは“最高クラスの”とか“一流の”意味ということなのですね。ということは、マイクラシックとは「私の最高級の女性」という意味合いなのでしょう。とにかくこういろいろ考えさせるところが謎めいた雰囲気をさらに高めていたのではないかと思うわけです。

 

 この曲のヒットで注目が高まった佐藤隆は、次のシングル『カルメン』もそこそこ売れましたが、ただこういった個性的な曲調は飽きられるのも早いのでしょうね。結局『マイクラシック』が佐藤隆の最大のヒット曲ということになりました。ただ一定のファンを掴んだことも間違いなく、以後も地道に音楽活動をつづけ、現在に至っております。