80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.323
エメラルドの砂 石田ひかり
作詞 岩里祐穂
作曲 井上ヨシマサ
編曲 鷺巣詩郎
発売 1987年5月
まだまだ女優としてブレイクする前、アイドル歌手としてデビューを果たした15歳の石田ひかりが歌う、夏のグループ旅行映画
石田ひかりが女優としてブレイクするのは、映画では1991年の「ふたり」、テレビドラマでは1992年の「悪女(ワル)」、そして何よりもNHK朝の連ドラ「ひらり」というあたりになるのでしょう。しかしその4~5年前に、実はアイドル歌手として15歳でデビューしていたのです。そしてそのデビュー曲が今回とりあげる『エメラルドの砂』でした。
1987年の女性アイドル界は、おニャン子ブームに陰りが見え、夏には解散してしまうという中、いわゆる四天王と呼ばれる南野、工藤、浅香、中山がそれぞれソロ歌手としてトップに位置していた時代ですね。この1987年にデビューした面々としましては、酒井法子、森高千里、立花理佐、小川範子、中村由真、仁藤優子、畠田理恵、伊藤美紀、小沢なつき、真弓倫子など多士済々、まだまだソロの女性アイドルの数は多く、この中から頭角を現していかなければならないという、激しい競争下でのデビューを強いられたわけです。
そんな中ですから、石田ひかりも順風満帆なスタートとはいえず、オリコン最高25位、売上2.6万枚という成績で終わっています。しかし歌手石田ひかりとしては、この2.6万枚という枚数が結果的にキャリアハイであり、順位としても2nd『く・ち・び・る・♡(ハート)2』(1987年8月)、3rd『恋は確率51%』(1987年11月)の24位が最高と、アイドルとしては花開かずに、ピークアウトしていくわけです。ただこの『エメラルドの砂』は個人的には当時結構気に入っていて、実はレコードも買ったのですよね。石田ひかりに注目していたというよりも、曲が良かったということから買ったわけで、のちに女優としてブレイクするとはまったく予想もしていなかったです。
この曲は夏休みのグループ旅行での恋を歌った、学生らしい歌です。この曲を聴いて当時イメージしたのは菊池桃子の『SUMMER EYES』で、ともにコテージが歌詞に登場します。ただ高原のコテージではなく、海辺のコテージのようで、それがタイトルにも表れています。
《夏のグループを抜け出して 抱きしめてよ 夏のグループを抜け出して Kissしてよ》
とグループの中の意中の相手と抜け駆けして恋人同士になることを妄想するのですが、
《とどかない心の声が瞳にこぼれた》
《打ち明けるなんて 私はしたくないわ わざと冷たくして あなたを試してみる》
と、好きだからこそ気持ちを言えないし、そっけなくしてしまうという損な性格。
《でも好きな子はいるの? ねぇ 誰が目当てなの?》
と心の中では一生懸命問いかけますし、
《白いTシャツを脱ぎすてて 水着のまま 白いTシャツを脱ぎすてて 駆け出すわ》
と心の内ははじけているのですが、結局心の声は届かないままで終わっていきます。
作詞は女性アイドルにも多く提供している岩里祐穂。新人アイドルとしては安心して任せられる作詞家といってよいでしょう。そして作曲も百戦錬磨の井上ヨシマサということで、正攻法で正統派のアイドルを目指していた感はありますね。ただしっとりした曲調は、中学生にはちょっとだけ大人っぽすぎたのかもしれません。2ndシングル、3rdシングルともう少し可愛いよりにシフトしていくのですが、前述のように大きな結果は出ませんでした。のちの女優としての大成をみると、適正は女優さんにあったのでしょうね。
その後はお姉さんも女優として人気となり、姉妹として一線で活躍を続けていくわけで、石田ひかりにこんなアイドル時代があったことを知っている人も、少なくなっているのではないでしようか。