80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.319

 

語りつぐ愛に  薬師丸ひろ子

作詞 来生えつこ

作曲 来生たかお

編曲 武部聡志

発売 1989年1月

 

 

デビュー曲以来の来生姉弟の作品、低迷していたセールスを再び押し上げた、原点に戻っての薬師丸ひろ子勝負の一曲かつ最後のトップ10入りシングル

 

 映画で女優として注目が高まっていた薬師丸ひろ子が、歌手としてデビューしたのが1981年11月の『セーラー服と機関銃』。自らが主演した映画の主題歌ということもあって、映画とともに歌も大ヒットし、オリコン最高1位、売上86.5万枚という実績を残しました。そしてこれをきっかけとして大ブレーク、一大ブームといってもいいほどの話題と人気を呼び、アイドル女優としてのひとつのスタイルを確立させることになったのです。キラキラと可愛い振り付けで踊る他のアイドル歌手とは一線を画し、合唱曲のような透き通った声でまっすぐに立って歌う歌手としての姿に魅かれたファンも多かったのではないでしょうか。さらにこの曲を作曲した来生たかおが、『セーラー服と機関銃』のタイトルと一部の歌詞を変えた曲『夢の途中』をリリースし、これがまた大ヒット。これにより来生たかおの名前も広まるなど、薬師丸ひろ子だけにとどまらない波及効果をもたらしたのでした。

 

 その後は自ら出演する映画の主題歌をシングルとしてリリースしていく形で、ヒット曲を連発していきます。『探偵物語』(1983年5月、オリコン1位、84.1万枚)、『メイン・テーマ』(1984年5月、2位、51.2万枚)、『Woman “Wの悲劇”より』(1984年10月、1位、37.3万枚)ときたところで、このあとは映画主題歌にこだわらず、歌手としての展開の幅も広げていきました。しかしながら、売上としてはジリ貧となっていき、1987年あたりからは10万枚にも届かない売上になっていきます。

 

 デビュー曲からこの間、薬師丸ひろ子の楽曲は、作詞は松本隆が行うことが多かったのですが、作曲は幅広い作曲家やミュージシャンが担当し、そのラインアップを見るといろいろな曲に挑戦してきたことがよくわかります。筒美京平から大瀧詠一、南佳孝、松任谷由実、井上陽水、玉置浩二、竹内まりや、中島みゆき、宇崎竜童と早々たる名前が並んでいます。しかしながら、歌手としては停滞感が漂い出していたところで、もう一度原点に戻ろうという意図があったのか分かりませんが、デビュー曲『セーラー服と機関銃』以来7年ぶりに来生姉弟と再びタッグを組んだのが、今回取り上げた『語りつぐ愛に』でした。結果としてこの曲はオリコン最高6位ながら売上は15.8万枚と、1985年11月の『ステキな恋の忘れ方』以来3年ぶりに売上15万枚の壁を越えるヒットとなったのでした。

 

 この曲はテレビの2時間ドラマのテーマソングとして使われましたが、そのタイアップ以上に、やはり楽曲の良さがヒットに結びついたように思います。実際、この曲も『セーラー服と機関銃』と同じように来生たかおとの競作になっていて、来生たかお自身も気に入っていたのではないでしょうか。歌詞をみると、それまでの曲に比べてかなり大人の歌詞になっていて、内容が抽象的、もっといえば哲学的なものになっています。このあたりは同じ来生えつこの作詞であっても、『セーラー服の機関銃』でのセーラー服の女子高生のイメージからはやはり成長した女性に合うように、きっちりと計算して作ってきたというのはあるでしょう。抽象的な分、歌詞の解釈は聴き手に委ねられる部分も多くはなるのですが、要するには雰囲気ですよね。いかにも来生たかおらしいけだるさの漂うメロディーに、それを知り尽くしたお姉さんがぴったりの言葉をハメたというところでしょう。《雨上がり 窓辺にたたずみ》《そっとブラインド 下ろしかける》《夜が包み込む前の うすやみの街》《夜を行く 足音 孤独に》などの薄暗い雰囲気を想像させる言葉が、けだるいメロディーラインを引き立てているように感じられます。結果、低迷していた売上を再び押し上げる力に繋がったわけです。

 

 ただし薬師丸ひろ子にとって、この『語りつぐ愛に』が最後のシングルチャートのトップ10入りの曲となり、その後は映画を中心とする女優業にさらに軸を移していくことになります。しかしながら近年は再び歌手活動も活発になってきていて、かつてのヒット曲を歌ってくれたりするのは嬉しい限りです。

 

 最後に、薬師丸ひろ子のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 探偵物語 ★

2 セーラー服と機関銃  

3 語りつぐ愛に 

4 紳士同盟  

5 ささやきのステップ

6 Windy Boy  

7 メイン・テーマ 

8 Woman “Wの悲劇”より 

9 終楽章 

10  あなたを・もっと・知りたくて 

★=80年代発売