80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.315

 

恋のぼんちシート  ザ・ぼんち

作詞 近田春夫

作曲 近田春夫

編曲 鈴木慶一

発売 1981年1月

 

 

MANZAIブームに乗って、人気漫才コンビザ・ぼんちのネタを思い切り反映させた企画物シングルが異例の大ヒット

 

 昭和の時代は、有名人であればとりあえずレコードでも出すか、というようなところがあって、野球選手、力士、落語家、そして漫才師と、いろんな人が調子に乗ってレコードを出していたのですよね。売れたらもうけものって感じだったのでしょうが、実際にヒットにまで結びつくことは滅多になかったのですが、その中で異例の大ヒットとなったのがザ・ぼんちの『恋のぼんちシート』でした。

 

 当時MANZAIブームの真っ只中、ある意味アイドル的な人気を誇っていたのがザ・ぼんちの二人で、その人気どおりに『恋のぼんちシート』はオリコン最高2位、売上45.3万枚という大ヒットとなったのです。実はほかにも当時の人気お笑いコンビはレコードを出しているのですが、B&Bの『恋のTake3』(1980年9月) が最高40位、ツービートの『俺は絶対テクニシャン』(1981年2月)が最高77位、星セントルイスの『ウッセーウッセー』(1979年)はランク外、おぼんこぼん『渚のミステリーギャル』(1982年)もランク外、ゆーとぴあ『ゆーとぴあのダンス天国』(1981年)もランク外と、みんな1枚は出しているのですよね。でもヒットしたのは結局ザ・ぼんちだけでした。

 

 80年代の後半になると、とんねるずの出現によって、お笑い芸人の出すレコード(CD)もかなり戦略的になってきて、テレビ番組の企画の中で歌を出してみたりということも珍しくなくなってくるのですが、80年代初頭までの行き当たりばったり的なお笑芸人のレコード発売の中で、ザ・ぼんちの大ヒットはかなり異例だったといえるでしょう。

 

 作詞・作曲は近田春夫が担当していますが、作家としての近田春夫はCMソングの世界を中心に活躍していた人で、いわゆる流行歌での提供としては、小泉今日子『Fade Out』(作詞・作曲)、ジューシィ・フルーツ『ジェニーはご機嫌ななめ』(作曲)があるぐらい。ただこの『恋のぼんちシート』に関しては、CMでの手法がかなり生かされたのではないでしょうか。ある意味ザ・ぼんちのを宣伝する歌でもあって、それが結果的に受けたのですからね。

 

 当時ザ・ぼんちのネタの中でも人気を呼んでいたのが、ワイドショーの番組でのレポーターと司会者のやりとりでしたが、それをそのまま歌詞にも採用したのが良かったのかもしれません。

《A地点から B地点まで 行くあいだに すでに恋をしてたんです》

と、ワイドショーでのやりとりにかけて、恋物語を歌詞にしたかと思いきや

《ポチ…ポチ…どこへ行ったんや…》

といったオチになるわけで、言ってしまえば漫才をそのまま歌にした感じなのですね。考えてみれば、みんなが聞きたいのはザ・ぼんちの漫才であって、本気で歌を聴きたいなんて人はいないわけで、そのあたりを心得てシングル曲を作った近田春夫の勝利といったところでしょう。

 

 この後ザ・ぼんちは5thシングルまで発売するのですが、結局売れたのは1stシングル『恋のぼんちシート』だけ。こういった企画物の場合は、どうしても2作目以降沈んでしまうのは仕方ないところではありますが、だからこそ逆に『恋のぼんちシート』が絶妙のタイミングで絶妙の楽曲で出されたということを認識させられるわけです。そしてこのヒットにより、冒頭に示したようなお笑い芸人の出した歌がヒットするという状況にも違和感がなくなっていくわけで、その意味でもこの曲のヒットは日本の歌謡界に残した意義は大きかったように思います。