80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.311

 

川の流れのように  美空ひばり

作詞 秋元康

作曲 見岳章

編曲 竜崎孝路

発売 1989年1月

 

 

昭和の大スターが平成になって最後に残した、悠久の時の流れを感じさせるような、後世に歌い継がれる名曲

 

 美空ひばりは言うまでもなく昭和の大スターでありますが、その昭和の大スターが平成に入った残した最後のヒット曲が『川の流れのように』です。基本的に美空ひばりがヒット歌手として大活躍していたのは1960年代までで、1967年10月『むらさきの夜明け』がオリコン最高6位となった以降は、長い間チャート上位を賑わすことはありませんでした。それが1987年12月発売の『みだれ髪』が20年ぶりのオリコントップ10入りの9位を獲得すると、その約1年後に発売された『川の流れのように』はオリコン最高8位というだけでなく、売上41.8万枚という、オリコンチャートが作られるようになって以降自身最大の売上を残したのです。まさに不死鳥のように蘇った美空ひばりということで、この晩年の大ヒットによって、生涯一線で活躍し続けたというイメージもしっかりと後世に残っていくことになったのです。

 

 演歌ばかりではなく、いろいろなジャンルの歌を歌ってきた美空ひばりだけあって、作詞が当時すでにヒットメイカーになっていた秋元康、作曲が一風堂に所属し、その後とんねるずやおニャン子クラブらにヒット曲を提供していた見岳章という若いコンビによる『川の流れのように』も、ちゃんと自分の者にしてしまったわけです。実際この曲は、演歌というにはちょっと躊躇してしまうような曲に仕上がっていたと思います。演歌歌手が、演歌以外の作曲家と組んで作品を作るということは、時折アクセント的に行われることはあって、五木ひろしと玉置浩二や永井龍雲とか、森進一と吉田拓郎や大瀧詠一などがありましたが、この『川の流れのように』の例も、それに近い形といえるのかもしれません。(もっとも見岳章はとんねるずの『雨の西麻布』『歌謡曲』といった『川の流れのように』よりももっと演歌らしい曲も作ってはいましたが…)

 

 『川の流れのように』は今でも時折テレビなどの番組で取り上げられるのですが、その都度クローズアップされるのが、当時まだ30歳の秋元康が作詞をしたということ。まだこの頃はおニャン子のイメージが強く、大人の歌手の歌というよりは、若者の歌を中心に作詞していたイメージの秋元康でしたが、この曲のおかげでその引き出しの幅広さを世間的に認識させる大きなきっかけとなり、さらに飛躍の大きなきっかけとなったのでした。今や秋元康の名刺代わりの一曲となったわけで、それだけ美空ひばりという存在は大きなものだったのでしょうね。

 

 ただ一方で作曲の見岳章になかなかスポットが当たらなかったというのも、なにか気の毒な気はします。見岳章が作曲した曲の中でもっとも売れたのも、この『川の流れのように』なのですよね。秋元康にはもっと売れた曲は山のようにありますが、見岳章にとってはこれが一番売れた曲、宝物のような曲だと思うのですよ。確かに秋元康の雄大さを感じさせる詩も素晴らしいのですが、その詩がのったメロディーもまた雄大さを感じさせる素晴らしいものであります。後世に歌い継がれる曲になったというのも、詩と曲と歌い手の見事な調和を果たしたこそでしょうから、たまには作曲者も取り上げてほしいななんて思ってしまいますね。

 

 それはともかくとして、美空ひばりの代表曲として、『川の流れのように』は多くの人に愛される曲として、今なお歌い継がれているわけで、それだけ多くの人々の心に届く楽曲だったということでしょう。そしてもう一つ、この曲が発売されてわずか半年後に、美空ひばりが亡くなってしまったというのも、この『川の流れのように』が伝説的な一曲たらしめる要因になっていると思われます。最後の最後に出した曲が大ヒットし、そのヒットをもってこの世界からパッと消えていったということが、いかにも大スター的に映ったのではないでしょうか。

 

私の世代では、もの心がついたときには、美空ひばりは既に過去の大スターという印象があって、現役としてヒット曲を歌っているというイメージはありませんでした。しかしながら、『川の流れのように』がアイドルやロックバンドに混じってヒットチャートを賑わしたことで、美空ひばりはまだ現役の大スターであることを認識させられたわけで、そして現役の大スターのままこの世の中を去っていったということにもなったのです。ですから美空ひばりを生涯現役の大スターのまま今なお人々の心に残っているということは、『川の流れのように』があってこそというのは間違いないところで、秋元康や見岳章以上にこの曲は美空ひばり自身にとって大きな大きな一曲となったのではないでしょうか。