80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.310
How Many いい顔 郷ひろみ
作詞 阿木燿子
作曲 網倉一也
編曲 萩田光雄
発売 1980年7月
郷ひろみにしか歌えないキャッチーな言葉遊びを折り込みながら、セクシー路線に舵を切った80年代初頭の郷ひろみの代表曲
80年代の郷ひろみからどの曲を取り上げようか、選択にかなり迷いましたが、80年代の郷ひろみの曲の特徴を網羅しているのがこの曲ではないかということで、『How Many いい顔』を取り上げてみました。
まず郷ひろみといえば、言葉遊びを含んだキャッチーなフレーズ。70年代においても『誘われてフラメンコ』(1975年2月)…《誘われてフラフラ》《乱されてユラユラ》《目の前がクラクラ》あたりはそんな要素がありましたが、80年代に入ってからはそれが顕著になっています。『お嫁サンバ』(1981年5月)や『2億4千万の瞳』(1984年2月)はそれが大きく成果を上げ、今もなお歌い継がれる曲になっています。その後も《A CHI CHI A CHI》の『GOLDFINGER’99』(1999年7月)もそんな一曲ですね。
一方でそれまでの“可愛い”というイメージから脱却すべく、セクシーな大人の魅力を表現した歌も、1970年代の終盤から取り組むようになっていましたが、1970年代ラストシングル『マイ・レディー』(1979年9月)、1980年代最初のシングル『セクシー・ユー ~モンロー・ウォーク~』(1980年1月)、その次の『タブー(禁じられた愛)』(1980年5月)と、ドキッとするようなフレーズのある、さらに一段階上げた大人のセクシーな曲に挑んでいくわけです。そしてそんな中で発売されたのが『How Many いい顔』でした。
この『How Many いい顔』は、言葉遊びを折り込みながら、一方でセクシーな要素も取り入れるという、まさに80年代の郷ひろみを象徴するような作品になっています。作詞は阿木燿子で、なるほど言われてみれば“らしい”歌詞といえるでしょう。阿木燿子と郷ひろみのタッグは、他に『帰郷』(1977年9月)、『禁猟区』(1977年12月)、『ハリウッド・スキャンダル』(1978年9月)、『地上の恋人』(1978年12月)、『ナイヨ・ナイヨ・ナイト』(1979年3月)、『若さのカタルシス』(1980年11月)、『未完成』(1981年2月)などがあり、いずれも1970年代終盤から1980年代序盤の作品で、郷ひろみが少年から大人の歌へと舵をとろうとしているその時期に、力を借りていたということですね。
そんな『How Many いい顔』の歌詞ですが、なんといってもサビのフレーズ
《処女と少女と娼婦に淑女》
が強烈な印象を残します。「ショ」「ショ」「ショ」「シュ」と頭韻を踏みながら女性を表す言葉を並べ、それも少女と淑女、処女と娼婦と対極にあるような言葉を入り混ぜながら、会うたびに顔を変える女性の魔性ぶりを表現しているのですよね。つまるところ
《How Many いい顔 今日はどの顔で誘うのかい》
と、少女なのか、淑女なのか、処女なのか、少女なのか、たくさん持っている顔の中で今日はどの顔でくるんだい?というわけなのですね。
一方の女性はというと
《ジゴロを気取った くわえ煙草を 真赤な爪が奪ってゆくよ》
《年ははたち でも誰より長く生きてるわ》
《可愛い顔して上手の上手 あなたが好き でも向こうの彼も素敵だわ》
と完全に女性側が優位に立ち、男は振り回されてあたふたしているだけに感じられます。そう、この歌は男目線で歌いながらも、完全に女性が主役になっているのです。しかしそれも当然、『How Many いい顔』はカネボウの化粧品秋のキャンペーンソングに使われていたのですからね。
『セクシー・ユー ~モンロー・ウォーク~』『タブー(禁じられた愛)』『How Many いい顔』といった流れは、強くてセクシーな女性を崇めるような立ち位置の歌になっていて、強い男をアピールするというよりは、セクシー路線の中にも可愛らしさが垣間見られるようなそんな郷ひろみをプッシュしていこうと、そんな時期だったのでしょうね。『How Many いい顔』は化粧品とのタイアップ効果や、印象的なサビなどにより、オリコン最高8位、売上29.9万枚ということで、前後の曲と比べると好結果を残しています。
最後に、郷ひろみのシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 マイ・レディー
2 よろしく哀愁
3 How Many いい顔 ★
4 セクシー・ユー ★
5 いつも心に太陽を
6 もう一度思春期 ★
7 哀愁ヒーロー ★
8 ハリウッド・スキャンダル
9 バイブレーション
10 なかったコトにして
★=80年代発売