80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.306

 

JUST ONE MORE KISS  BUCK-TICK

作詞 櫻井敦司

作曲 今井寿

編曲 BUCK-TICK、中山努

発売 1988年10月

 

 

今なお同じメンバーで解散することなく活動を続けるカリスマバンドが世間に衝撃を与えた、ビジュアル系バンド隆盛の幕開けを告げるデビュー曲

 

 1990年代以降の日本音楽界において、一大勢力として台頭し、広がっていくいわゆるビジュアル系バンド。ビジュアル系という言葉自体が使われ出すのは1990年代に入ってからですが、ビジュアル系と呼ばれるバンドがメジャーデビューを果たしていくのが、ちょうど1980年代の終盤ということで、そんなことからBUCK-TICKはビジュアル系の元祖的なバンドとして評されることが多いバンドです。同時期に現れた近い存在としては、X、DEAD END、JUSTY NASTY、ちょっとずれてD’ERLANGER、BY-SEXUALなどがあり、そこからいわゆるビジュアル系バンド的なスタイルが群れとして広がっていくことになります。

 

 その中でもメジャーデビュー以降現在まで、メンバー変更もなく、解散することもなく続けている稀有なバンドであるBUCK-TICKは、まさにビジュアル系バンド界の重鎮的な、カリスマ性を備えた元祖ビジュアル系バンドとして君臨しているわけです。そしてそんな彼らがメジャーデビューしたシングル曲が、今回取り上げる『JUST ONE MORE KISS』でした。

 

 当時バンドのメンバーが派手な髪形やファッションをしていると、ヘビメタ系かハードロック系のとっつきにくい音楽をやっているようなイメージがあって、BUCK-TUCKのいで立ちも、聴き心地の良いいわゆるヒット曲を中心に聴いている我々にとっては、なかなか手を出しにくい感じはしたのですが、いざ聴いてみると、なかなか聴きやすい音楽を奏でていたのですよね。それこそがいわゆるビジュアル系が世の中に受け入れられて広がっていった要因なのでしょう。ハードで尖がった見かけに対して聴きやすくポップな楽曲。『JUST ONE MORE KISS』もまさにそんな作品だったのです。私も確かこれ、CDシングルを買った記憶があります。

 

 そして『JUST ONE MORE KISS』の作品としての世界観もどこか神秘的でファンタジックな要素を持っていて、それまでのギラギラ系のロックバンドとは一線を画した甘美さを感じさせるところがまた新しい魅力でした。

《横顔はまるで刹那の美貌》

《むせかえる香り 薄れゆく意識だけが》

《抱き合えばそこは架空の都》

《天使のざわめき 悪魔のささやき 月夜に甘いくちづけ》

などといったフレーズにもそんな甘美さが感じられますが、汗振り乱して男くささ全開といった従来のバンドにはない、中性的ですらある雰囲気、それこそがBUCK-TICKが持ち込んだ新しさだったような気はしまする。もちろんそれ以前にも一風堂のように、化粧で中性的を演出したようなバンドは存在していましたが、音楽で甘美な世界をここまで表現したのは、BUCK-TICKあたりからではないでしょうか。バンド名から想像させられる尖った印象と、作り出す甘美な世界、そのギャップがとにかく魅力的でした。

 

 その後1990年1月に発売した『悪の華』はオリコン最高1位を獲得し、彼らの音楽が完全に市民権を得ると、やがて多くの後発のバンドたちに影響を与えていくことになります。そしてビジュアル系といった言葉が一般化され、現在に至るまで、BUCK-TICKから繋がる系譜の多くのバンドを産み出していくことになるわけです。