80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.301

 

ランニング・ショット  柴田恭兵

作詞 吉松隆、門間裕

作曲 吉松隆

編曲 吉松隆

発売 1986年12月

 

 

これが歌かと問われるとちょっと戸惑ってしまうような、とにもかくにも雰囲気重視の柴田恭兵らしさを表現した追求した一曲

 

 柴田恭兵の本職はもちろん俳優で、1980年代後半はまさに人気絶頂期。舘ひろしとのコンビによる「あぶない刑事」シリーズはドラマや映画でシリーズ化されましたが、この『ランニング・ショット』はそのドラマの主題歌になっています。実は柴田恭兵は10枚以上のシングルを出していて、『ランニング・ショット』は6枚目のシングルなのですよね。そしてドラマとの相乗効果もあってか、オリコン最高7位、売上12.0万枚というヒットになったのです。そしてこれは柴田恭兵にとって唯一のトップ10入り、そして10万枚越えという貴重な一曲になったというわけでした。

 

 80年代においても、本職が俳優の出したヒット曲はほかにも何曲かあります。代表的なのが西田敏行『もしもピアノが弾けたなら』でしょう。中村雅俊は歌手活動にも積極的で、かなりヒット曲も多い俳優さんですが、80年代では『心の色』『恋人も濡れる街角』が大ヒット。『ルビーの指環』の寺尾聡はもともとグループサウンズ出身ですので、この中に入れていいのか迷うところですが、仕事の中心はやはり俳優業。「あぶない刑事」の相棒の舘ひろしも『泣かないで』がヒットしました(この人もそもそもは音楽からのスタートでしたが)。

 

このようにヒット曲を持つ俳優の仲間入りを『ランニング・ショット』で果たした柴田恭兵でしたが、でもこの曲、かなり独特です。けっして歌が上手とはいえない柴田恭兵でしたが、その柴田恭兵を歌でカッコよく見せるにはどうしたら良いか、それを練った結果がこの曲に行きついたような、そんな曲が『ランニング・ショット』でした。

 

 作詞・作曲・編曲のすべてに関わっているのが吉松隆。この方、作曲家ではあるのですが、基本的には管弦楽曲系の作曲家さんで、いわゆる流行歌の作曲に関わることはほとんどない方です。交響曲第何番とか、ピアノ協奏曲とか、そんな曲を多くつくられているのですが、なぜか柴田恭兵の曲を手掛けているのですよね。いったいどんな経緯があったのでしょうか。ポップス系ではほかにZONEの『true blue』を共作ながら作品に携わっているようですが、なんとも不思議な気はします。ただそんな流行歌畑の作家さんではなかったことから、逆にこんな独創的な作品に仕上がったのかもしれません。なにせこの『ランニング・ショット』のサビは歌というよりも叫びなのですよね。

《行くぜ! GET UP!  ハッ!  GET ON!  Oh yeah  TAKE UP!  TAKE OFF!》

このカッコイイのかカッコ悪いのかよく分からない感じで柴田恭兵が叫んでいて。またそれに重ねる女性コーラスがかなり仰々しいのです。これは、本職の歌手では歌えないでしょう。良い意味でナルシストになりきって歌わないとなかなかこなせない楽曲、つまりは人気絶頂の二枚目俳優であった柴田恭兵だからこそこなせた曲だったといえるのではないでしょうか。だからこそ売れたというのもあるでしょう。

 

もっとも柴田恭兵が音楽番組で活躍した印象はあまり残っていません。西田敏行、中村雅俊、舘ひろし、寺尾聰ら俳優歌手組はみんな紅白歌合戦にも出ていますが、柴田恭兵は出ておらず、この辺りが歌手としての印象が薄い理由になっているのかもしれません。ただ次のシングル『WAR』(1987年4月)も実はオリコン13位にはなっていて、この2曲を出した頃が、柴田恭兵としての人気が一番すごかったころといえるのかもしれません。