80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.300
悲しいね 渡辺美里
作詞 渡辺美里
作曲 小室哲哉
編曲 小室哲哉
発売 1987年12月
近づく冬を感じる寒さがリアルに伝わってくるような歌詞に、転調しながらの繰り返しを多用した典型的な当時の小室節が調和した冬の名曲
渡辺美里が自身で作曲も手掛けるようになるのは、シングルでは1990年5月発売の『サマータイムブルース』が最初で、その次が1994年5月の『真夏のサンタクロース』(佐橋佳幸との共作)。作詞は大部分を自身が担っていましたが、作曲については他のミュージシャンに提供してもらうことがほとんどで、そのミュージシャン陣というのが岡村靖幸、大江千里、伊秩弘将、佐橋佳幸、そして小室哲哉という面々になるわけです。その中でも作曲小室哲哉、歌唱渡辺美里というコンビネーションは、双方にとって大きな意味を持つ結果になったのではないでしょうか。
80年代の小室哲哉からすると、初めて自分の作曲家としての名前にスポットが当たったのが『My Revolution』(1986年1月)で、それをきっかけに多くのアイドルへの作曲依頼が増え、さらに自身所属のTM NETWORKのブレイクにも繋がったといっても過言ではないでしょう。一方渡辺美里自身のブレイクのきっかけとなったのも『My Revolution』であり、以降『Teenage Walk』(1986年5月)、『BELIEVE』(1986年10月)、『悲しいね』(1987年12月)、『ムーンライトダンス』(1989年6月)、『POWER 明日の子供』(1990年9月)、『卒業』(1991年4月)、とコンスタントに関わっていくことになり、切っても切れない関係に合ったのです。その中で今回取り上げたのが『悲しいね』になるわけです。
この頃の小室哲哉というと、特にサビの部分における似たようなメロディーの繰り返しの中での転調をいろんな曲で使ってきているイメージがあって、『ムーンライトダンス』『POWER 明日の子供』なんかもそうですが、この『悲しいね』もまさにそんな曲なのです。見事な小室節といったところなのですが、それが切なげな歌詞にはまって、冬の名曲に仕上がっていたのですね。
冬の名曲と記しましたが、正確にいうと『悲しいね』は冬を目前にした晩秋といったところでしょう。ただ渡辺美里の楽曲は、わりと季節感がはっきり出ているのも特徴で、特に夏の歌と冬の歌の印象が強く、その中でも最も冬らしいのが『悲しいね』なのではないかと個人的には思っています。夏の歌では『サマータイムブルース』、『夏が来た!』(1991年6月)、『BIG WAVEやってきた』(1993年7月)、『真夏のサンタクロース』(1994年5月)、冬の歌では『悲しいね』のほか『クリスマスまで待てない』(1991年11月)、『いつか きっと』(1993年2月)などが挙げられます。
実際にこの『悲しいね』の歌詞は、目の前にきている冬を感じる寒さと、その中での人恋しさがひしひしと伝わってくるようで、情景がとても浮かびやすいものになっているのです。まずは冒頭でいきなり持っていかれます。
《下りの電車 明日まではまた逢えない まつ毛の先そっと 街の灯がともるよ》
夕刻時刻、恋人と別れて帰路に就く時間、明日会えるといっても寂しさが募るのでしょう。
《やさしく息がかかるくらい 近くにいて せつないほど君を遠く感じている》
《君に泣き顔みせないように うしろ向きで手をふるのはなぜ》
その日の別れを告げて一人乗り込む電車。
《流れてはすぎる風景に 答えはあふれだす》
そして恋人との別れの時をより切なくさせるのが冬を思わせる寒さなのでしょう。
《幼い頃はサンタクロース待っていたよ 凍るような夜は 君の声待ってる》
《国道沿いの街路樹へと 風がゆれる かじかむ手のひらに 冬が近づいてる》
冬が近づいているということは、まだ秋のうちなのでしょうが、手がかじかむほどの寒さであれば、体感的にはもう完全に冬。その寒さに、ふと子供の頃の楽しい冬のクリスマスを思い浮かべたのでしょうか。
《人のこころのあたたかさに 情けないほどふれたいのはなぜ》
そんな寒さの中で、人のぬくもりが恋しくなり、
《踏切の音にわけもなく 涙があふれだす》
わけです。恋人と別れて帰る帰路の寒さの中で、いろいろと思いめぐらせている様子がひしひしと伝わり、聴いている側もなんともいえない寂しさを感じさせる歌詞が好きで、当時何度も何度も繰り返し聴いたものでした。
その後もガールズ・ポップの先鋒として、80年代後半から90年代前半にかけて、ヒット曲を連発し日本の音楽シーンの中心で活躍し続けた渡辺美里。今でもそのパワフルな歌唱は健在で嬉しい限りです。
最後に、渡辺美里のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 悲しいね ★
2 いつか きっと
3 サマータイムブルース
4 世界で一番遠い場所
5 ムーライトダンス ★
6 真夏のサンタクロース
7 BIG WAVE やってきた
8 夏が来た!
9 My Revolution ★
10 BELIEVE ★
★=80年代発売