80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.299
お・ね・が・い 森尾由美
作詞 槙村侑
作曲 槙村侑
編曲 清水信之
発売 1983年5月
チャームポイントの八重歯が可愛らしいTheアイドルによる、アイドル不作の83年に放ったTheアイドルソング
早起きした日曜日にテレビをつけるとよく目にする森尾由美さん。なんだかんだいって、今でも芸能界でタレントとして、女優としてマイペースに活動している彼女も、そのデビューは「ド」がつくほどの、アイドルアイドルしたアイドル歌手でした。デビュー日時点で16才。大人っぽいとは対角にある、実に可愛い可愛いしたアイドルで、いつでもニコニコと笑顔の印象があります。そしてその象徴が八重歯のある歯並びでした。お世辞にもきれいな歯並びではなかったのですが、逆にそれが森尾由美のチャームポイントになっていたのですね。
デビュー曲の『お・ね・が・い』がこれまたとびっきりの可愛い曲。「お願い」でなくて、『お・ね・が・い』なのです。こんな可愛い16歳にお願いされてしまえば、なんでも叶えてあげたくなっちゃうというのが男心(?)。歌唱力には難があったものの、それを逆利用しての可愛い路線は、彼女の明るいキャラクターにもぴったりと合っていたように思います。
作詞、作曲は槙村侑。ただこの槙村侑なる人物の情報は極端に少なくて、提供している楽曲を探しても、森尾由美の何曲かに関わっている以外は、まったくといっていいほど情報が出てきません。森尾由美の身内や近い関係者なのか、誰かのペンネームなのか、それはともかく『お・ね・が・い』は歌詞もメロディーも可愛らしい曲に仕上がっていました。いや、歌詞に関していうと、100%まっさらな可愛らしさというよりも、ちょっとエッチな要素もあって、ドキッと一瞬させるのです。
《いやらしい男の子達が 遠くの方で 私のサラサラの足を うっとり見てる》
《ちょっとエッチな恋もしてみたいのよ》
《熱い口づけして!して!して!》
森尾由美みたいにどちらかいうと幼い感じの女の子が言うことで中和され、さらりと可愛くなっている感じがありまして、かえって大人びた色気ムンムンの路線のアイドルだったら、反感を持たれかもしれません。ただこんなことを言いながらも
《1つどんなに好きか 証拠を見せて 2つシンデレラみたいに うっとりさせて》
《3つやさしい言葉で魔法をかけて 4つ王子様のように微笑みかけて》
と、実はまだまだ夢見る少女ちゃん。このあたりの、ちょっと背伸びしたいけれど、まだまだ頭でっかちで大人の恋にあこがれる女の子的なところが、結局のところTHE アイドルソングなわけです。
ただ森尾由美がデビューした1983年は、のちにアイドル不作の年と言われ、歌手としてトップ級に昇り詰める存在は出ませんでした。大豊作であった前年1982年組や、菊池桃子や岡田有希子、荻野目洋子らがデビューした1984年組の間に挟まれ、アイドルとしての人気が集まらなかった、ある意味不憫な年。強力な82年組と競合して勝てなかったということなのですが、森尾由美も、例えばおニャン子クラブの中に紛れて世に出たりしていれば、或いは81年ぐらいに出てきていたならば、もっと売れていたのじゃないかと思っています。タイミングが悪かったかもしれません。結局『お・ね・が・い』はオリコン最高54位、売上4.1万枚でおわっています。枚数的には森尾由美にとってこのデビュー曲が最大の売上で、順位的には5thシングル『トモダチの関係』(1984年4月)の43位が最高と、いまいち跳ねなかったです。
ただ1983年組はその分逞しさが身に付いたのでしょう。松本明子、いとうまい子、武田久美子、松居直美など、別の分野で頑張って成功した人たちも多いのです。森尾由美もその後バラエティの分野や女優として活躍、長らく芸能界で頑張っているわけですから、素材してはやはりそれなりのものがあったということではないでしょうか。