80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.296

 

気まぐれロメオ  THE PRIVATES

作詞 延原達治

作曲 延原達治、手塚稔

編曲 J.GRAY  THE PRIVATES

発売 1989年5月

 

 

バンドブームが盛り上がる中で登場した一見尖がった見かけながら、シンプルで味わいのあるロックを聴かせる上昇の波に乗った一曲

 

 1989年はまさにバンドブームの真っ只中、プロアマ問わず雨後の筍のように次から次へと新しいバンドが登場し、ホコ天やライブハウスを賑わせていました。テレビではイカ天が人気となり、音楽をやるなら虎も角にもまずはバンドを組めといつたような時代でした。THE PRIVATESもそんな時代に頭角を現してきたバンドの一つで、1989年に入りじわじわと人気を集めてきていました。本当は名曲『SHERRY』を取り上げたいところなのですが、シングルとして発売されたのが1990年3月と、惜しくも1980年代に間に合わなかったので、そのSHERRYに次ぐ2番目の売上を残した『気まぐれロメオ』を今回取り上げてみました。

 

 THE PRIVATESは1987年8月『君が好きだから』でメジャーデビューを果たし、初めてオリコンのトップ100にチャートインしたのが3rdシングル『LUCKY MAN』で最高は74位。折しも時代はバンドブームということで、その波にも乗り、次第にファンを獲得していき、この5thシングル『気まぐれロメオ』で33位まで上昇します。とにかくいろいろなバンドか次から次へと出てくる中で、THE PRIVATESは奇を衒わないシンプルなロックで勝負という印象で、そしてメロディーよりはリズムやノリに重きを置いた楽曲。流行りの最先端というよりはどこか懐かしい匂いを感じさせる音楽であった一方、髪型やファッションなどは、いかにも当時の「今どき」のバンド野郎といった雰囲気でありました。

 

 そんな中でこの『気まぐれロメオ』あたりからはややメロディーも売れ線を意識しだしているような、個人的にはそんな印象を受けました。歌詞をみると、いかにも彼ららしい男の生き様みたいなものが歌われていて、このあたりTHE PRIVATESのバンドとしてのキャラクターがしっかりと表れているように思います。

《こまらせるつもりはないけど またワガママな人ねと言われた》

《うまくやろうとする気もないけど ぶちこわしにしようとは思わない》

《投げだしてしまう訳じゃないが もうだますような真似をしたくない》

と、徹底的に世の中に抗い続けるアウトローになるつもりはないけれど、いい子ちゃんになりすますことはしないよという、まるで彼らのバンドとしての立ち位置のような歌詞になっています。体制側にも反体制側にもどちらにつくことなく、自由気ままで流れるがままに一日一日を暮らす、そんな浮揚感のようなものが、聴くたびに不思議と心地よくなってくるのですよね。万人に受けるような派手な音楽ではないかもしれませんが、味わいのある音楽、そんなふうに感じました。

 

 そしてこの2曲あとにリリースされたシングル『SHERRY』がキャリア最高のオリコン23位にまで昇りつめ、THE PRIVATESとしての人気のピークを迎えます。この歌はしっとりと聴かせるメロディーと、仕事もしないダメ男なりの愛情を歌った歌詞で、胸がキュンとするようなせつないラブソングに仕上がっています。「シェリー」は何も尾崎豊ばかりじゃないんだよ、ということなのです。

 

空前のバンドブームの中、彼らは大ブレイクこそしませんでしたが、彼らなりの立ち位置で味のある存在感をしっかりと示すことができたのではないでしょうか。