80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.294

 

ターミナル  畠田理恵

作詞 亜蘭知子

作曲 松岡直也

編曲 松岡直也

発売 19876

 

 

 

のちにNHK朝ドラヒロインとしてブレイクし、やがては将棋名人の夫人の座に収まった、モモコクラブ出身のアイドルの2ndシングル

 

 畠田理恵もまた、1980年代半ば当時の女性アイドルのデビューコースの1つ、モモコクラブから出てきた一人です。その中でも畠田理恵は、正統派の美少女的な立ち位置でデビューし、19873月発売のデビュー曲『ここだけの話~オフレコ~』はいきなりオリコン13位、売上7.9万枚と快調なスタートを切ることができました。吸い込まれそうでまるでお人形さんのような瞳、アイドルとしては落ち着いた低音のボーカルで、お嬢様風な雰囲気を持ち合わせていましたね。ただデビュー曲の楽曲自体は地味で、ちょっと暗い感じ。それでも売れたのですが、彼女のお嬢様風なイメージに合いながら、もう少し華やかな曲をということで持ってきたのが、2ndシングル『ターミナル』でした。

 

 この『ターミナル』も決して明るい曲ではないのですが、デビュー曲に比べると断然に華があって、おしゃれ感のある作品になっていました。それもそのはず、この『ターミナル』の作曲・編曲が松岡直也なのですよね。松岡直也はジャズ・ピアニストとして、音楽ファンの間では絶大な評価を得てはいましたが、その名前がポピュラーになったのは、なんといっても中森明菜『ミ・アモーレ』の作曲が大きなきっかけとなったことは間違いないでしょう。ただ他のアーティストへの楽曲提供はあまり多くなくて、その貴重なひとつがこの『ターミナル』だったというのは、特筆すべき点といって差し支えないでしょう。実際このアレンジには、『ミ・アモーレ』を彷彿させるものがあり、畠田陣営としては、『ミ・アモーレ』のような異国感のあるような雰囲気の曲で、大きく飛躍させようとする狙いがあったのではないでしょうか。

 

 一方亜蘭知子が作詞した『ターミナル』の歌詞ですが、タイトル通り人々が行きかう夜のターミナルを舞台にした内容になっています。おそらくまだ付き合いだして間もない彼氏とデートをして、いよいよ最終電車の時刻。

《「帰るなよ」と視線(まなざし)の キスを浴びてうつむいた》

とまだまだ夜はこれから、とばかりに引き留める彼氏に対して、

《友達の部屋に泊まるって まだ嘘はつけない つけない》

と、またお泊りは早いからと、彼氏に対して理解を求めるのですが

《思い通りにいかないことがあると 急に無口になるのね》

とやりたい盛りの男の子は、お預けを喰らって急に不機嫌に。

《星影時刻のターミナル ケンカしたまま帰れない》

《ため息時刻の田へ見なる 一人で先に冷めないで》

《さよなら時刻のターミナル 時計 横目に責めないで》

どうにもならない気まずい空気のまま、この彼女は帰るしかないという、そんなターミナルの出来事が描かれていて、実は雰囲気ほどにロマンティックな歌詞ではないところが面白いです。

 

この『ターミナル』は結果としてオリコン最高12位と、畠田理恵のキャリアハイを記録し、次はいよいよトップ10かと期待が寄せられはしましたが、歌手畠田理恵としてはこのあとは徐々に売上をおとしていきます。しかしながら、女性畠田理恵としてはこの後どんどんとアゲアゲになっていきまして、1990年にはNHKの連続テレビ小説でヒロインに抜擢されてブレイク、そして1996年には将棋の羽生善治と結婚。これにより芸能界は引退となりますが、今さらいうまでもなく将棋史に残る大棋士の奥さまですからね。見事に仕留めたといっては失礼でしょうか。近年はTwitterで畠田理恵本人の言葉がつぶやきを見ることができます。