80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.291
悲しみよこんにちは 高岡早紀
作詞 真名杏樹
作曲 加藤和彦
編曲 加藤和彦
発売 1989年5月
歌手としても活躍していた後の魔性の女優がまだ清楚なイメージで売っていた頃、オリコン自己最高順位を残した海外文芸シリーズ(?)第2弾
今や魔性の女とも称される色気ムンムンの女優として大活躍している高岡早紀ですが、デビュー時は歌手としても活躍をしていて、アイドル的な存在でもあったのですね。デビューは1988年4月発売の『真夜中のサブリナ』でしたが、この曲のオリコン最高位は47位と、さほど目立った実績にはなりませんでした。しかしながら次の『眠れぬ森の美女』(1988年11月)で最高21位とジャンプアップと、次第に人気をあげていきます。同じ1988年にデビューした女性アイドルというと、Winkが出世頭でそのほかは喜多嶋舞、坂上香織、田中律子、中山忍、西田ひかる、藤谷美紀、深津絵里(高原里絵)などがいるのですが、女優として活躍している人が多いのが特徴的ですね。
そんな中で3rdシングルとして発売したのが、今回取り上げた『悲しみよこんにちは』でした。『悲しみよこんにちは』ときくと、まずは1986年の斉藤由貴の同タイトルのヒット曲を思い浮かべるわけですが、ヨーロッパの民話を前作『眠れぬ森の美女』の流れからすると、むしろサガンの小説『悲しみよこんにちは』の方を意識してしまいます。もっと歌詞とはリンクはしていないので、実際には無関係なのでしょうが、私は勝手に海外文芸2部作と呼ぶことにします。そして高岡早紀の『悲しみよこんにちは』はオリコン最高15位と自己最高順位を記録したのです。
作詞は真名杏樹。80年代の終盤から90年代を中心に活躍していた作詞家ですが、岡本真夜『TOMORROW』、織田裕二『歌えなかったラヴ・ソング』『現在、この瞬間から』、立花理佐『キミはどんとくらい』『サヨナラを言わせないで』、渡辺満里奈『夏の短編』などのヒット曲を手掛けています。高岡早紀ではデビュー曲からこの3rdシングルまでの3曲連続で作詞を担当していて、初期の高岡早紀のイメージづけに大きく貢献していました。
歌詞の内容はというと、これはファンタジー童話の世界ですね。いきなり青い鳥が登場して逃げていったかと思えば、神話世界のアポロンに
《夢はどこなの? すぐに教えてよ》
問いかけ、さらにはイタリア語でさようならを意味する
《Arrivederci》
ですから、作品全体がどこかふわふわしたような浮揚感に包まれているような印象を受けます。メロディもまた然りで、けっして上手な歌ではないのですが、彼女のふんわりした歌い方にはぴったりとしてゆったりめのテンポで、歌詞の世界観にもよく合っています。そしてこのつかみどころのない感じというのは、今の高岡早紀にも通ずるところがあって、その意味ではデビュー当時から高岡早紀の個性を理解して、それに合うような作品をしっかりと用意できたということなのかもしれません。
高岡早紀は次の4thシングル『薔薇と毒薬』(1989年9月)でもオリコン19位とトップ10入りを果たしますが、歌手としてのピークはここまで。1990年の青春映画「バタアシ金魚」ではヒロイン役が話題になり、以降は女優業へとシフト。その後の活躍は今更説明するまでもありません。今では歌手をしていたことさえ知らない人たちが多いのではないでしょうか。