80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.288
A BOY 中村あゆみ
作詞 高橋研
作曲 高橋研
編曲 高橋研
発売 1985年10月
ちょっと不良っぽい男の子への繊細で傷つきやすい恋心を歌った、初期の中村あゆみのイメージを決定づけた一作
中村あゆみというと、どうしても『翼の折れたエンジェル』での鮮烈な登場のイメージが強いのですが、トップ10入りのヒットシングルを結構多く放っているのですよね。今回取り上げた『A BOY』は『翼の折れたエンジェル』の次の4thシングルで、当時12インチシングルといわれたシングルになります。オリコン最高7位、売上8.0万枚を記録していますが、中村あゆみのヒット曲という中からは漏れてしまいがちの曲です。『翼の折れたエンジェル』以外はといわれると、『ちょっとやそっとじゃCAN’T GET LOVE』とか『ともだち』あたりが挙げられることになるのでしょうが、個人的にはこの『A BOY』が好きなのですよね。
『A BOY』が発売された当時、中村あゆみは19歳。ギリギリでティーンと呼ばれる年齢ではあったのですが、前作『翼の折れたエンジェル』の歌詞で13(thirteen)から18(Seventeen)までの少女が少しずつ大人に近づいていく過程を歌っていたことで、ちょっと不良っぽいませたティーンの女の子の代弁者的なイメージがついていたというのがあるでしょう。まずはそのイメージに沿った形の歌を続けようという戦略もあっての『A BOY』だったように感じられます。確かに見かけも派手めでヤンキー臭がありましたし、ハスキーな声がまた、年齢のわりに人生経験を積んでいますよ的な感じに見えていたので、素直にそっちの方向に振っていったのでしょう。
1985年から1986年の前半にかけて、若い女性ロック系の新進シンガーが同時期に続けて登場し、その中で中村あゆみ、NOKKO(レベッカ)、渡辺美里の3人がその代表格としてよく取り上げられていました。当時は女性のロッカーというのはまだそれほど多くなく、いてもアン・ルイスや山下久美子に代表されるようなハードで暑苦しい(失礼!)感じのイメージが強かったのですが、3人の登場でよりカジュアルでおしゃれでポップで、とっつきやすいものに変わっていったのです。ひとつの潮流だったのでしょう。ただこの3人の中では、渡辺美里についてはいわゆるガールズ・ポップの先駆者的な扱いをされることが多く、作家陣からみてもポップスによった立ち位置でした。一方、音楽的にもファッション的にも従来のハードなロック系の要素を一番強く持っていたのが中村あゆみで、NOKKOはその中間あたりで一番トレンド感が強かったように思います。それぞれうまく棲み分けをしていたようなところはありますね。
それでもって『A BOY』ですが、不良っぽい男の子に恋をしている女の子の繊細な思いを歌った恋愛ソングになっています。
《誰でもがあなたのことを 悪く言うのはなぜ?》
《革ジャンのその胸だけが たったひとつの安らぎの場所なのに》
《初めての朝迎えたのは ガレージの車の中 バックシートの中のパラダイス》
と、恋人像としてこの時代のツッパリ少年のイメージを想像させながら、
《ガラスのハート守っていてほしい》
《大人は誰も わかっちゃくれないの》
《小さなハート 今にも砕けそうよ》
と、彼女自身の繊細で傷つきやすい思いを吐露していて、不良少年との恋を歌う思春期恋愛ソングのひとつの王道の形に収めているのです。
このあたりも前作からの繋がりを感じさせるところで、次の5thシングル『真夜中にラナウェイ』(1986年2月)と併せたこの3曲で、中村あゆみの初期のイメージを確立させたというところでしょう。『真夜中にラナウェイ』でも《大人になんてなりたくはないから》と歌っていて、まさに大人に対するティーンエイジャーの女の子の気持ちを代弁者として、中村あゆみは存在感を示すことに成功したわけです。
こうして初期における役割を終え、20歳を超えた中村あゆみは、化粧品のCMソングに起用された6thシングル『ちょっとやそっとじゃCAN’T GET LOVE』から、大人の女性の立場で歌う次のステージへと舵をとっていくことになるのです。