80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.279
キ・ツ・イ 玉置浩二
作詞 松井“お月様”五郎
作曲 玉置“流れ星” 浩二
発売 1989年1月
主題歌にもなったドラマにぴったり、それまでにないコミカルな一面を見せた玉置浩二2枚目のソロシングル曲
いうまでもなく玉置浩二は安全地帯のバンドとして注目を浴び、ヒット曲を連発していました。安全地帯としての最初のヒットは1983年11月発売の『ワインレッドの心』で、次のヒット『恋の予感』(1984年10月)以降は出す曲出す曲がオリコントップ10入り。ただ安全地帯は玉置浩二の完全なるワンマンバンドで、他のメンバーの顔や名前はほとんど前面に出ることはありませんでした。そんな中最初に出した玉置浩二ソロシングルが、1987年7月の『All I Do』で、この曲はオリコン最高位10位で終わっています。ほぼワンマン状態の安全地帯でしたので、ソロシングルの意味がどれほどあったのかというのは、正直なところ当時思った記憶があります。楽曲自体も、安全地帯とはそれほどかけ離れた者でもありませんでしたからね。
しかしながら安全地帯は1988年に活動休止状態に入り、いよいよソロ玉置浩二として本腰を入れていくことになります。それは歌手や作曲家としてだけでなく、連続テレビドラマ「キツイ奴ら」に出演するなど、俳優としての活動も加わっていったのですが、その「キツイ奴ら」の主題歌に起用されたのが、今回取り上げた『キ・ツ・イ』だったのです。この『キ・ツ・イ』はタイトルだけ聞いてもわかるように、安全地帯の楽曲にはなかったようなどこかコミカルな味わいのある作品でした。曲調的には『じれったい』が近いかもしれません。そしてテーマソングとなったドラマもコメディでしたので、コピーだけでなく、雰囲気もそこに寄せたというのもあるでしょう。結果としてドラマで毎週流れる効果もあり、オリコン最高7位を記録するヒットになったのです。
作詞はおなじみの松井五郎、作曲は当然玉置浩二自身ではありますが、実はこんな雰囲気の曲も作れるんだよ歌えるんだよと、作曲家として、ボーカリストとしての幅の広さを示すことになったのではないでしょうか。なんか楽しんで歌っているように聴こえるのは、気のせいばかりではないと思うのですよね。安全地帯の眉間にしわを寄せながら苦しそうに歌うイメージから解放されて、いや、眉間にしわを寄せている感じはこの曲でも一緒なのかもしれませんが、でも堅苦しさはまったく感じられません。実際、この曲をきっかけに玉置浩二にファンキーなイメージが加わっていったのも事実で、本来持ち合わせながら隠されていたキャラクターが、『キ・ツ・イ』によって吐き出されたようなところがあったのではないでしょうか。
改めて歌詞をみると、これがなかなかしゃれています。それでいて、どこかコミカルなニュアンスもにじみ出ていて、安全地帯の歌詞を書き続けてきた松井五郎だけに、このあたりのコンビネーションはさすがといったところ。思うままにならない男女の駆け引きに焦っているような感じがいいですね。
さてさて、このあとさらに玉置浩二はソロとしての活動が活発になっていき、1996年に『田園』という大ヒット曲が生まれることになります。歌唱力にも磨きがかかり、歌がうまい歌手のランキングなどがあると、必ず上位にランキングされるような存在にもなっていて、もはや大御所といった感じですね。私生活ではいろいろとワイドショーを賑わせたこともありますが、それもまあご愛敬といったところでしょうか。