80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.276
子供達を責めないで 伊武雅刀
作詞 秋元康
作曲 Barnum・Reeve
編曲 清水信之
発売 1983年8月
今となっては超貴重、映画ドラマで活躍する怪優伊武雅刀が、まださほど有名でない時代に放った強烈なコミックソング
今でこそ、様々な映画やドラマで独特の存在感を見せ続ける怪優伊武雅刀ですが、実はシングルレコードを発売していて、しかもそこそこ売れたのですよね。むしろそのシングルが話題になったことがきっかけになって名前が知られ、俳優の仕事も増えていったのです。私も最初に伊武雅刀の名前を知ったのが、この『子供達を責めないで』でした。オリコン最高21位ながら売上は14.3慢枚ということで、じわじわとロングヒットになったのです。そしてこの歌の作詞がなんと秋元康ということで、作詞した曲では1982年10月発売の稲垣潤一『ドラマティック・レイン』が初めてのヒット曲になったばかりの頃。そう考えると、今からみて実に貴重な曲なのですよね。
で、この曲『子供達を責めないで』ですが、まあ、とんでもない歌です。いや、歌と言いましたが、これ歌ではないです。音楽にのせて叫んでいるだけの演説レコードです。元になっているのは、サミー・デイヴィスJr.の"Don't blame the children"で、言ってしまえばカバー曲ではあるのですが、内容的にはどうもかなりニュアンスは変わってしまっているようです。原曲はまじめなメッセージ性の強い詩であるようですが、伊武雅刀盤は完全にコミックソングになっているといっていいでしょう。
いきなり
《私は子供が嫌いです》
から始まり、
《子供は幼稚で 礼儀知らずで 気分屋で》
《甘やかすとつけあがり 放ったらかすと悪のりする》
《オジンだ 入れ歯だ カツラだと はっきり口に出して人をはやしたてる無神経さ》
《努力のそぶりも見せない 忍耐のかけらもない》
《火事の時は足手まとい 離婚のときは悩みの種 いつも一家の問題児》
《身勝手で足が臭い》
《泣けばすむと思っているところがずるい》
と抜粋しただけでも、子供への悪口のオンパレード。その上で
《そんな子供達のために 私たちおとなは 何もする必要はありませんよ》
《私達おとなだけで 刹那的に生きましょう》
と子供達を切り捨てるわけで、まあは実に「大人げない」演説なのです。
これ、子供達が聴いたらどう思うのでしょうかね。当時私は高校生になっていましたので、笑って聴いていられましたが、もし小学生ぐらいだったら、かなり不愉快になっていたかもしれません。それほどとんでもないレコードを、よくも思い切ってリリースしたなとは本当に思います。子供が大人に対して反抗したり、文句を言ったりする歌は数多くありますが、大人が子供に反抗したり文句を言ったりしているレコードは、この曲ぐらいなものでしょう。本当にしょーもないし、大人げない作品ですね。コミックソングはあっても、ここまで挑発的で怒ってばっかりのものは、まずないのではないでしょうか。それほどにインパクトは絶大で、刺激も強かった作品でした。
こんな作品を世に送り出した伊武雅刀だったので、またこんなコミックソングを出してくれないかと期待していたのですが、どうやらこちらの世界に戻ってくるつもりはなかったようです。若い頃にはふざけたコミックソングを出していても、後に正統派の歌手や俳優として大成すると、黒歴史として封印してしまいたいものなのでしょうか。吉幾三『俺はぜったい!プレスリー』しかり、杉本哲太『ぶりっこRock’n Roll』しかり、そして伊武雅刀『子供達を責めないで』しかり。ナツメロ番組なんかで再び伊武雅刀のあの雄姿(?)を見たいものです。