80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.275
卒業 尾崎豊
作詞 尾崎豊
作曲 尾崎豊
編曲 西本明
発売 1985年1月
同じタイトルのシングルが4つも競合した偶然をきっかけに、尾崎の存在を一気に広げることにもなった、世相をも反映した伝説の一曲
若くして亡くなったスターは、どうしても若い年齢で止まったままになってしまい、時を経る毎に伝説化していくもので、その最たる存在の一人が尾崎豊といえるでしょう。尾崎豊は1983年12月、シングル『15の夜』とアルバム『十七歳の地図』を同日発売により鮮烈にデビューを果たします。ただ今でこそ伝説的な曲として歌い継がれている『15の夜』ですが、当初から尾崎が売れたわけではありません。シングル『15の夜』はオリコンのトップ100にも入っておらず、またアルバム『十七歳の地図』も実際にセールス的に大きく伸びたのは、1990年代に入ってからの再リリース盤になってからでした。
そんないまいち一般には広がっていなかった尾崎豊の名前が一気に認知されていったのが、4thシングル『卒業』でして、初めてオリコンのランキングに登場すると、最高20位、売上7.4万枚を記録しました。実はこの年の春、『卒業』というタイトルのシングルが4作もリリースされたことで、これがちょっとした話題になり、ラジオなどでもたくさん取り上げられたのですね。他の3人は斉藤由貴、菊池桃子、倉沢淳美といずれも人気女性アイドルということで、尾崎豊の曲とはまったくテイストの異なる『卒業』たちではあったのですが、それでもこの競合関係で取り上げる機会が多かれ少なかれ増えたのは間違いないでしょう。当時においては、この4人の中で最も知名度が低かったのは尾崎豊であり、これを機会に彼の歌を聴くようになった人も多かったでしょう。かく言う私もその一人でした。
10代の頃の尾崎は、とにかく若者たちの代弁者としての役割を一身に担っていたといっても過言ではないくらいだったのですが、この『卒業』もまさに卒業していく若者の悩み苦しみ叫びを歌った曲でした。特に1980年代の前半は校内暴力が社会問題化していて、そんな世相も反映したような歌詞でもあり、そのあたりに多くの中高生たちは共感を覚えたのではないでしょうか。
《行儀よくまじめなんて 出来やしなかった 夜の校舎 窓ガラス壊してまわった》
《誰かの喧嘩の話に みんな熱くなり 自分がどれだけ強いか 知りたかった 力だけが必要だと 頑なに信じて》
《信じられぬ大人との争いの中で》
など、このあたりの描写に、校内暴力全盛期に中学時代を過ごした当時の私は、まさに「今」を感じ、こんなことも歌詞にしてしまうのだと衝撃を受けたものです。この曲は当時としては曲の時間も長く、歌詞もぎゅうぎゅうに目一杯詰め込まれていて、とにかくものすごいボリュームを感じましたね。
一方で窓ガラスを壊してまわって『卒業』だったり、盗んだバイクで走りだす『15の夜』のイメージが尾崎豊に重くのしかかっていったのも事実でしょう。若者の代弁者どころかカリスマ的存在として奉られてしまったようなところもあって、20代になったあと、次の進むべき道に悩んだところもあったのではないでしょうか。シングルで約2年のブランクがあったのも、変化に必要だったのかもしれません。『太陽の破片』(1988年6月)以降は、尾崎豊の楽曲の対象はより大きなものへと変わっていったように感じました。その意味で、10代の尾崎でしか歌えなかった『卒業』は、自分がリアルタイムで10代に聴いて感じたからこそ、今もなお胸に強く響き続けているように思うのです。
尾崎が亡くなったと聞いた翌日のこと、すでに社会人となっていた私でしたが、今でもその日何をしていたのかをよく覚えています。