80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.273
噂になってもいい 武田久美子
作詞 来生えつこ
作曲 加藤和彦
編曲 清水信之
発売 1983年1月
不安定なボーカルが魅力(?)、近藤真彦主演映画のヒロインとして話題になり、のちには貝殻ビキニでも有名になった武田久美子の歌手デビュー曲
1982年、当時人気絶頂期にあった近藤真彦主演映画「ハイティーン・ブギ」のヒロインとして抜擢されたことで、一気にその名前が広がった武田久美子。もっとも近藤真彦とのキスシーンが、マッチファンの反感を大いに買うことになってしまい、本人は何も悪くないのに、多くの女性に敵視されてしまったという、ちょっと気の毒なところもあったのですが、これを機会に大いに売り出そうと、当時の若手女性タレントの王道手段である歌手デビューを1983年1月に果たしました。そのデビュー曲が『噂になってもいい』です。
このタイトルからすると、当時の彼女の置かれている状況を逆手に取ってみたような、そんなところはあったのでしょうね。のちのセクシーな武田久美子しか知らない人にとっては想像もできなさそうな儚げで清楚なイメージだった武田久美子、『噂になってもいい』はそのイメージどおりの楽曲になっています。当時としても一昔前のアイドルが唄うようなやや古臭いと感じられるような歌ではありましたが、彼女の歌唱力では難しい歌は無理だったでしょう。とにかく不安定ではかなげ、聴いていて冷や冷やしてしまうようなボーカルで、当時の彼女のイメージにははまってはいたものの、それにしても限度はありますから、もし今の時代なら歌手デビューすることはなかったでしょうね。
それでもこの曲はオリコン最高14位、売上8.9万枚と、新人のデビューとしてはまずまずの成果を残します。いくらマッチファンの反感を買ったとはいえ、これだけ話題になれば、とりあえず買ってみようという人たちも少なからずいたということでしょう。
それでこの詩が、今改めて読むと、見方によっては結構すごい詩なのです。作詞は来生えつこであることを考えると、素直に読んでいいのかなとは思うのですが、穿ってみると、とんでもない独りよがりの妄想女の詩にも見えてくるのですよ。
《落としたマフラー拾ったら テレながらお礼も言わず あなたは走って逃げるよに》
《噂になるのがいやなのかしら》《避けているそぶりの二人 あまのじゃくね》
《私をそんなに避けないで もう少し普通にしてよ 挨拶ぐらいはいいでしょう 知らん顔悲しいわ》
《男だからきっとテレル気分強い 分かっていても はがゆいのよ》
《通りの向こうを歩いてる うつむいて視線を隠し あなたはいつでもあいそなし》
これ、きっと二人は両想いということは前提の上の歌詞なのでしょうね。ですから人前だとそっけなくしていることに物足りなくなっている彼女が、「噂になってもいい」からみんなのいるところでも仲良くしたいという気持ちを歌っていると、素直にとればそうなんです。
ただこれ、どこにも男の子側からの言動が綴られていないですし、前提も実は聴く者任せ。見方によっては、男の子が女の子を大嫌いで避けているだけなのに、この女の子が勝手に、相手も自分のことを好きだけれど、テレているからそっけないのだけだと思い込んでいるとも捉えられるのですよね。だとしたら、とんでもない妄想女の歌だということになってしまいます。まさか後者だとは思いたくないのですが、まさかね、いやもしかして…。
さて武田久美子ですが、歌手としてはやはり難があり、このデビュー曲がキャリアハイになります。その後はシングルをリリースするたびに成績は落ちていき、活動の場を別の場所に移していきます。その判断が正しかったということで、貝殻ビキニの写真でまた一世を風靡(?)することになりますが、80年代歌謡とは離れていってしまいますので、今回はここまで。