80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.266

 

CRY ON YOUR SMILE  久保田利伸

作詞 川村真澄

作曲 久保田利伸

編曲 杉山卓夫

発売 198710

 

 

 抜群の歌唱力と当時の日本人らしからぬリズム感で台頭してきた新進アーティストの飛躍のきっかけとなった、初のトップ10入りシングル

 

 私が最初に久保田利伸という名前を意識したのが、田原俊彦のシングル曲の作曲者としてでした。『華麗なる賭け』(19858)It’s BAD(198511)2曲続けて作曲者としてシングルに起用され、いったい何者だという感じだったのですが、あとから考えると、田原俊彦のスタッフたちに先見の明があったということになるのでしょうか。歌い手としても19866『失意のダウンタウン』でデビューすると、徐々にその知名度を上げていき、今回取り上げた名バラード『CRY ON YOUR SMILE』によって、初めてのオリコントップ10となる8位にまで順位を上げてきたのです。

 

 久保田利伸の名バラードといえばまず浮かぶのが『Missing』ですが、この曲は1986年にリリースした1stアルバム『SHAKE IT PARADISE』の収録曲。しかしシングル曲でもないにも関わらず、当時も話題になり、FMなどでもよくかけられることも多く、今でも代表曲の1つとなっています。そんな『Missing』の好評を受け、同じ系統のバラード曲をシングルとして発売することで、勝負をかけてきたなというのが、当時の正直な印象でした。そろそろシングルのヒットも欲しいと。そして実際にそのとおり、ヒットに結びついたわけです。

 

 実際に『CRY ON YOUR SMILE』は良い曲ですし、一回聴いて、売れるだろうとも思いました。そして聴くと今度は歌いたくなるもので、一生懸命覚えようとするのですが、そこで大きなハードルとなるのが久保田利伸の抜群の歌唱力というわけなのです。当時大学のサークル内に、ちょっと変わったS君という後輩(実は彼は後輩といいながら、だいぶ4つか5つぐらい年上で、別の大学をちゃんと卒業してから、改めて私のいる大学に入学し直したという強者)がいまして、普段はアイドルの音楽の話かしないような男だったのですが、ある時久保田利伸の歌唱力をべた褒めしてきたのです。彼の口から久保田利伸の名前が出たこと自体が驚きではあったのですが、批判ばかりでほとんど褒めないサワモト君がアーティストを褒めたということは、結構衝撃的だったのです。そしてその時点ではあまり意識していなかった久保田利伸の歌の上手さというものに、しっかりと気づかされるきっかけになった出来事でもあったのです。

 

 確かにこの曲、音程をビシッときめて歌えると気持ちいいんですよね。特に

Woo I keep on lovin’ you through the night through the night baby, I keep on lovin’ you through the night

の英詩のところが好きなんですよね。詩もね、川村真澄のどこか退廃的でわびしさを感じるワードがよくて冬にはピッタリ。

《風よけるコート》《なつかしい悪ふざけ》《傾いたプレイト》《月の光に身を沈め》

…冬の寒空の下、コートの襟を立てながら口ずさみたく(?)なりますね。

 

 何はともあれ、この曲で一つの壁を破った久保田利伸は、さらにビッグな存在へとなっていきます。次のシングルYou Were Mineがトレンディドラマの主題歌に起用され、オリコン3位、売上34.1万枚と大ヒット 。以後は多くの曲をヒットチャート上位に送り込み、そして1996年発売のLALALA LOVE SONGに結びついていくわけです。