80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.265
ニュアンスしましょ 香坂みゆき
作詞 大貫妙子
作曲 EPO
編曲 清水信之
発売 1984年8月
苦節7年、17枚目のシングルで香坂みゆき初めてのヒットとなった資生堂化粧品秋のキャンペーンソング
香坂みゆきは1977年4月『愛の芽ばえ』で歌手デビューを果たしました。もっともそれ以前、欽ちゃんのテレビ番組のマスコットガール的な存在で起用されて人気となっていて、デビューの年は、いろいろな音楽賞の新人賞争いの中で、ときどきテレビなどでも歌う機会もありました。ですからそこそこ知名度はあったのですが、残念ながらヒットには結び付きませんでした。デビュー曲『愛の芽ばえ』のオリコン最高53位で売上3.5万枚というのが、結局16枚目のシングルまでの最高値。2枚目『初恋宣言』が80位、3枚目『青春舗道』が92位とジリ貧となり、4枚目以降10枚目シングルまではトップ100にも入りませんでした。ただそれでもレコードを出し続けられたというのは、恵まれていたのかもしれません。
そんな低迷状態から光が見え始めたのは、11枚目『気分をかえて』、13枚目『レイラ』が再びトップ100に戻ってきた頃でしょうか。『レイラ』については、当時よくテレビで歌っていたのを覚えています。今あらためて聴いてみると、香坂みゆきは歌も上手でボーカルにも迫力があるのだというのを、改めて認識させられますね。これだけの歌が歌えるのであれば、もっと楽曲に恵まれていたら、違った展開もあったのではないでしょうかね。
いずれにせよ、全くの低迷期から少し光が見え始めたところで出会ったのが『ニュアンスしましょ』でした。この曲は当時影響力絶大であった資生堂の化粧品秋のキャンペーンソングに起用されたことでチャンスとなり、オリコン最高13位、売上13.7万枚と自身最大のヒット曲になったのです。作詞が大貫妙子、作曲がEPOということで、ニューミュージック系のアーティストと組むことで、新しい香坂みゆきを引き出すことにも成功したのではないでしょうか。特にEPOはこの頃、化粧品のCM曲を手掛けることが多く、自身が歌う『う、ふ、ふ、ふ』や高見知佳『くちびるヌード』など、それぞれの代表曲となるヒットを生み出すことに成功していて、この『ニュアンスしましょ』も同様の成果を残したのです。
楽曲については、化粧品のCMソング、そしてEPOということで、そのイメージ通りのおしゃれ感漂うものになっています。イントロから中華風のテイストいっぱいで始まり、チャイナドレスでも着て歌うのがとても似合いそうな曲で、秋のキャンペーン曲ではありますが、雰囲気は穏やかな春といったところ。香坂みゆきの歌も、『レイラ』での迫力ある熱唱ボーカルとは変えて、しっとりと妖艶な感じに仕上がっています。
詩の方は、化粧品のキャンペーンのキャッチコピーなど、制約をいろいろ受けているであろう中でも、大貫妙子ワールドといいますか、独特の不思議な世界に迷い込んだような個性的なものになっています。サビの
《しましょ しましょ ニュアンスしましょ》
のところは、なんだか意味はよく分からないけれど、妙に耳に残るフレーズになっていて、きっちりCMソングとしての役割を果たしているなという印象ですかね。けっして派手な作品ではないし、万人が好きだという感じではなかったでしょうから、トップ10入りの大ヒットにまではなりませんでしたが、それまで低迷していた歌手香坂みゆきを一気に引き上げ、歌手として是が非でも欲しかった代表曲になったということでは、香坂みゆきにとって大きな一曲になったのではないでしょうか。