80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.264
Deadend Street GIRL 堀ちえみ
作詞 鈴木博文
作曲 鮎川誠
編曲 鈴木茂
発売 1985年4月
作曲者鮎川誠のメロディーと廃退的かつ疾走感あふれるアレンジが光る、堀ちえみとしては貴重なチョーかっこいい系のいきどまりソング
堀ちえみはアイドル大豊作となったいわゆる82年組(1981年末デビューの者も含めた、1982年の新人賞レースを争ったアイドル達ですね)の主要な一人として活躍をし、オリコントップ10にも11曲連続の合計11曲を送り込みました。最高順位を見ても1位こそないものの、2位が2曲『クレイジーラブ』(1984年10月)、『リ・ボ・ン』(1985年1月)あり、間違いなくトップアイドルという存在ではありました。ただこれだけチャート上位を賑わしながらも、「代表曲は何?」と聞かれると、ちょっと考え込んでしまうところが、歌手堀ちえみの弱いところではあります。
他の82年組の上位メンバーをみてみると、トップ中のトップとなった中森明菜や小泉今日子はもちろん代表作自体がたくさんありますが、ほぼ同格だった早見優には『夏色のナンシー』、松本伊代(81年デビューですが新人賞レースとしての対象は1982年)には『センチメンタル・ジャーニー』、石川秀美には『ゆ・れ・て湘南』といった代名詞的歌があるのです。しかもそれぞれのアイドル時代のオリコン最高位をみても、石川秀美が4位、早見優が7位、松本伊代が8位と、堀ちえみより劣るのです。ですから、当時の個人の人気としては、ほぼ同格と前述しましたが、本当は堀ちえみがその3人よりも少し抜けていたというのが実態だったと思います。ただ後世に残るような楽曲に恵まれなかったというのが、今となっては惜しいことではありますね。
では、いい曲がなかったのかというと、けっしてそんなことはありません。むしろ82年組の中では、もっとも正統派のアイドルソングを歌い続けていたのが堀ちえみだったのではないでしょうか。ただ今回取り上げた『Deadend Street Girl』は堀ちえみのシングルの中ではやや異端な楽曲で、シングルの中ではほぼ唯一といってもいいカッコイイ系の楽曲ではありました。それまではごくごく普通の純粋な女の子といった歌を歌い続けてきたのですが、この曲に関しては、どこか擦れて廃退的な雰囲気を見せていて、それでいて不思議な疾走感があり、聴いていて妙に心地よいのです。歌詞もメロディーもアレンジも、すべて良いのですよね。これが当時の堀ちえみのイメージに合っていたかというと、必ずしもそうではなかったのですが、でも1つの楽曲としてとらえると、この曲はやっぱりカッコよかったです。
セールス的にはオリコン最高9位、売上10.6万枚と、堀ちえみのレコードセールスがやや下降期にはいってきたこともあって、目立つ結果は残せませんでしたが、私の周りでは結構密かに人気はある曲でした。なんといっても作家陣が良いですね。作詞がムーンライダースの鈴木博文。ちなみに他の作詞の提供としては石川秀美『熱風』があります。そして作曲がシーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠。かなり珍しい取り合わせでの楽曲ということで、かなり気合も入っていたのではないでしょうか。そしてその通り楽曲もそれまでの堀ちえみとは一味も二味も違う雰囲気に仕上がっていたのです。
イントロ部分でいきなり
《あなたの行き止まりは私 うず巻く風を抱いて走って》
とセリフが入るというインパクト。そこからあとは、アクセルをふかし、ハイウェイを走り、途中のドライブスルーでコーヒーを買い、クラクションを鳴らし続け、そしてヘッドライトが砂に埋まる海へと、疾走感あふれる歌詞とメロディーが繰り広げられます。かといって爽快感があるかというと違って、むしろ「Deadend」=「行き止まり」という言葉からも受ける、不健全感といいますか、退廃的な雰囲気さえ漂っていて、それが堀ちえみのハスキーな声とも不思議とマッチしていたのです。それはドジでのろまな亀のイメージとは対極であるとさえ思えるもので、多少背伸びしている感は否めませんでしたが、それでも楽曲としての魅力を損なうものではけっしてありませんでした。
結局この路線が続くことはなく、次のシングルは人を食ったようなコミックソング調の『Wa・ショイ!』(1985年7月)ですから、この舵の取り方はちょっと残念な感じはありました(ちなみにこの曲も作詞は鈴木博文)。そしてその『Wa・ショイ!』が堀ちえみにとっての最後のオリコントップ10シングルとなったのでした。
その後堀ちえみは波乱万丈の人生を送ることになります。ただ病気と闘いながら、必死に頑張っている姿には、ファンではなくても、応援してあげたくはなりますね。
最後に、堀ちえみのシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 Deadend Street GIRL ★
2 待ちぼうけ ★
3 稲妻パラダイス ★
4 夏色のダイアリー ★
5 とまどいの週末 ★
6 クレイジー・ラブ ★
7 さよならの物語 ★
8 リ・ボ・ン ★
9 素敵な週末 ★
10 青い夏のエピローグ ★
★=80年代発売