80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.262
昴 谷村新司
作詞 谷村新司
作曲 谷村新司
編曲 服部克久
発売 1980年4月
盟友堀内孝雄に続いて初のソロヒットとなった壮大な一曲は、後世に歌い継がれるスタンド―ドに
海外でも歌われるなど、今では完全にスタンダードとなっている『昴』ですが、当時はまさかこんなに偉大な曲になるとは、当然のように思いませんでした。『昴』発売以前に、同じアリスの堀内孝雄がソロとして『君のひとみは10000ボルト』を1978年8月に発売し、これがオリコン1位の大ヒット。これに触発されて、谷村新司もソロでヒットが欲しくなったのだろうとぐらいにしか思わなかったし、実際にオリコン2位、売上67.6万枚というヒットになったことで、アリスのメンバー同士、仲良くヒットしてよかったねと、そんなぐらいにしか思いませんでした。
確かにこの『昴』はその詩、曲、アレンジが見事に調和して、実に雄大な曲になっています。当時のアリスのターゲットは基本的には若者だったと思いますが、こと『昴』に関しては、どこか演歌的な雰囲気も持っていて、普段演歌しか聴かないお父さんたちも、この歌は抵抗なく聴いたり歌ったりしていたのですよね。そういう意味では、幅広い層からの支持を取り込んでのヒットだといってもいいのかもしれません。
《哀しくて目を開けば 荒野に向かう道より 他に見えるものはなし》
《砕け散る宿命の星たちよ せめて密やかに この身を照らせよ》
とこのあたりだけでも、冬の夜の見渡す限りの広いの荒野に一人立ち、空に輝く昴の星団見上げて思いをはせる男の姿が映像で浮かんでくるようです。
《我は行く蒼白き頬のままで》
と星あかりが男の顔を照らす中で、見上げた星にとれあえずの別れを告げ、何を考えてまたどこへ向かって行くのだろうか、そんなことをいろいろと想像させるのですよね。言葉数はけっして多くない歌詞ですし、具体的な描写も抑えられ、主人公の男がどんな状況で何を思いそこにいるのかさえ、想像に任せられるのです。それでいて雄大と悠久を感じさせる歌詞。このどんなようにも捉えらることのできる懐の深さが、結果的に『昴』をスタンド―ドに押し上げたのではないかと私は思うのです。
もう一つ、『昴』が社会に与えた影響としては『昴』という漢字にあります。当時「すばる」と言えば、おうし座のプレアデス星団だったり、自動車メーカーだったりをまず思い浮かべるのが普通でしたが、いずれもひらがなかカタカナで表現され、「昴」という漢字での「すばる」という読み方は、さほど一般的ではなかったはずです。それがこの曲によって「昴」=「すばる」というのが広く認知されるようになり、さらには名前にも使いたいという動きがみられるようになったのです。そして1990年に「昴」という漢字が人名漢字にも加わり、晴れて正式な戸籍上の名前に「昴」の字が使うことができるようになったわけです。おそらくこの曲がなかったら、『昴』という字が人名として使われることもなかったか、或いはあってももっと遅くなったのではないでしょうか。
その後はアジア圏でこの歌はさらに広がりを見せ、今でも谷村新司の代名詞といえる歌になったわけです。その谷村新司ですが、ソロとしてはその後『群青』(1981年7月)、『22歳』(1983年10月)などが売上枚数を伸ばしました。ただオリコントップ10に入ったのは、実は『昴』だけなのです。そういう点でも『昴』はある意味奇跡的な一曲といってもいいのかもしれません。