80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.260

 

ヴィーナスの失敗  高橋良明

作詞 森雪之丞

作曲 佐藤健

編曲 入江純

発売 19887

 

 

 

16歳で非業の死を迎えることになる次期スター候補が残した3枚目にて最後のトップ10入りシングル

 

 19891月没。享年16歳。交通事故によりあっけなく亡くなってしまいました。テレビドラマにも多数出演し、198711月にリリースしたデビュー曲『天使の反乱』はオリコン9位となり、そこから3曲連続してトップ10入り。次代のスター候補として、順風満帆な芸能界でのスタートを切っていた矢先のことです。もし事故がなかったら、その後どんな活躍を見せていたのか、そんなことをいくら考えたところで、その答えなど分かるはずもありません。今では覚えている人も少なくなっているのではないでしょうか。

 

 そういえば、こんなことがありました。亡くなった直後のある日、当時大学生の私は、CDショップで高橋良明のCDシングルを1枚手に取ってレジに持って行きました。なんか1枚買って持っておきたくなったのでしょうね。すると、その時レジを担当していた若い女の子(とはいっても当時の私も若かったのですが…)が「なんか可哀そうですね」と話しかけてきたのです。CDショップの店員さんが、会計や包装のこと以外の話をしてくるなんて初めてでしたし、しかも可愛い女の子だったので、それだけでちょっとドギマギしてしまった私。それもそのはず、差し出したCDが時代の最先端を行くかっちょいいロックバンドだったりすれば、俺こんなの聴いているんだぜとどや顔もできたのでしょうし、難しそうなクラシックならば、僕って知的でしょ?なんと顔もできたのですが、差し出したのがアイドル歌手、しかも男のアイドルですからね。女性のアイドルだったら、まあおかしな風には思われなかったでしょうが、高橋良明ですから。変な疑いを持たれはしないかと、恐る恐るレジに持って行ったので、必要以上にドギマギしてしまったのです。それでも「可哀そうですね」という言葉には、どこか共感してくれているようなニュアンスが感じられ、変な風には思われなかったかなと、内心安心はしました。「は、はい…」とそそくさと帰ってしまったことを、今でもちょっと後悔したりしています。

 

 で、長くなりましたが、その時に買ったのが『ヴィーナスの失敗』だったのです。3rdシングルであるこの曲は、オリコン最高7位を記録しました。まあこういっては何ですが、歌手としての高橋良明は取り立てて取り上げるべきポイントがあるわけではなく、歌唱も荒くてお世辞にも上手だとはいえないですし、楽曲的にも至って普通の男の子が歌いそうな曲を用意しましたという感じで、将来的に歌でやっていこうというものは、おそらくなかったのではないでしょうか。ただ若手を売り出そうとしたら、まずは歌を出すというのがこの時代までの戦略でしたので、その流れにとりあえず乗ったということでしょう。すでにジャニーズ以外の男性アイドルが大成するのは難しくなっている中、かなり健闘したとはいえるでしょう。『ヴィーナスの失敗』自体は、《俺の真夏を恋に染めてくれ》《君の未来を恋で飾りたい》というおめでたいラブソング。ファンの女の子だけに向けたような、割り切ったラブソングといえるのではないでしょうか。

 

 このあと高橋良明は『悲しきバッド・ボーイ』(198810)『抱きしめて サンライズ』(19891)2枚目シングルを発売しますが、その2枚目のシングルを発売したその月に、事故であっけなくなくなってしまったのです。さらに死後に1枚のシングル『夢で逢えるさ!が発売され、それが本当のラストシングルになりました。