80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.254

 

狂った果実  アリス

作詞 谷村新司

作曲 堀内孝雄

編曲 石川鷹彦

発売 19807

 

70年代後半にヒット曲を連発した3人組フォークグループの、グループとして最後且つ80年代唯一のトップ10ヒット曲

 

 

 

 19723『走っておいで恋人よ』でデビューした3人組フォークグループのアリスは、1970年代後半にヒット曲を連発し、ひとつの時代を作ります。

『今はもうだれも』(19759月、11位、28.8万枚)

『帰らざる日々』(19764月、15位、31.9万枚)

ときて、

『冬の稲妻』(197710月、8位、55.4万枚)

が大ヒット。以降

『涙の誓い』(19783月、4位、40.5万枚)

『ジョニーの子守歌』(19786月、6位、49.4万枚)

『チャンピオン』(197812月、1位、78.0万枚)

『夢去りし街角』(19794月、6位、31.1万枚)

『秋止符』(197912月、4位、50.5万枚)

と出す曲出す曲ヒット。さらには堀内孝雄ソロで

『君のひとみは10000ボルト』(19788月、1位、96.9万枚)

80年代に入って滝もとはるとのコンビで

『南回帰線』(19804月、4位、37.6万枚)

谷村新司ソロで

『昴』(19804月、2位、67.6万枚)

と、グループでも個々でも大ヒットを放ってきました。そんなアリスも1981年をもって活動停止となるわけで、よってアリスとして最後且つ80年代唯一のトップ10入りヒットとなったのが『狂った果実』なのです。

 

 当時『狂った果実』と聞くと、石原慎太郎の小説だったり、石原裕次郎主演の映画だったりを思い浮かべる人が多かったのではないでしょうか。もちろんアリスのメンバーも、それを知っていてこのタイトルをつけたのでしょうけれど、内容的にはリンクするものは特にありません。ただ、「狂った果実」という言葉の持つ雰囲気というものが、なんかよかったのでしょうね。映画の『狂った果実』では、一人の女に手玉に取られた兄弟に衝撃的な結末が待っていたのですが、アリスの『狂った果実』もかなり荒んだ心の内を歌詞にした、わりと刺激の強い内容になっています。

 

 《ひとしきり肩濡らした冬の雨 泥をはねて行き過ぎる車》

《追いかけて喧嘩でもしてみたら 少しぐらい心もまぎれる》

と冒頭から主人公の冷えて擦り切れたような心の内が読み取れます。

《狂った果実には 青空は似合わない》

と、まるで明るい人生をあきらめてしまっているようなその裏に、

《家を出たあの時の母のふるえる声は 今でも響いてる》

と、いう背景があることがここで分かってくるのです。2コーラス目になっても状況は変わりません。

《許してくれなんて言えない 今の俺には ナイフ捨てたこの手で》

《生まれてきたことを悔やんでないけれど 幸福に暮らすには 時代は冷たすぎた》

と、とにかく救いようがない歌詞が続き、そして

《狂った果実にも夢はあるけれど どうせ絵空事なら いっそ黙ってしまおう》

で最後のキメ言葉が

Silence is Truth!

なのですよね。沈黙こそ真実だと。黙っていることで察してくれと。実に希望のない歌なんですよね。『チャンピオン』でも年老いたボクサーの悲哀が延々と描かれてはいても、最後にほのかな別の希望が見えてはいたのですが、『狂った果実』については何一つ希望も光も見えないまま終わっていくのです。 

 

アリスのシングルの多くを作詞してきたのが谷村新司なのですが、この歌詞なんかを他の作品と比べてみてみると、谷村新司の作詞家としての幅の広さを改めて感じさせられるような気はします。『昴』とか『いい日旅立ち』とか悠久さを感じさせるような作品とは対照的で、狭い殻の中に閉じこもって閉じこもって出で行けなくなってしまった荒み切った心が、歌詞の端々から感じられて、なんともいえない気持ちにさせられるのですよね。この『狂った果実』はアリスにとって、12番の代表曲ではないけれども、これもアリスの一面だということを的確に表している作品として、オリコン最高6位、売上34.5万枚という数字でも実績として残っていることは、意味があることじゃないかと思っています。