80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.244
四月列車 杉浦幸
作詞 秋元康
作曲 井上大輔
編曲 矢島賢
発売 1986年4月
主演した大映ドラマでも話題になった、雑誌『Momoco』出身ながらヤンキー臭の漂うアイドルのセカンドシングルは、典型的な上京失恋ソング
杉浦幸は1985年当時人気のアイドル誌『Momoco』で注目され、同年まずは女優として大映ドラマ『ヤヌスの鏡』でいきなり主役としてデビューしました。『Momoco』出身のアイドルといえば、西村知美、島田奈美、畠田理恵、酒井法子、姫乃樹リカなど、正統派の可愛い系のアイドルを多数輩出していて、当初は杉浦幸もその路線に乗っていく戦略はあったのでしょうが、本人がどうもヤンキー臭があって、そこに「ヤヌスの鏡」での不良少女役ですから、デビュー前に路線変更といった感じだったのかもしれません。
そして翌1986年1月に待ちに待ったレコードデビューを果たし、デビュー曲『悲しいな』はオリコン最高4位、売上15.6万枚と、ドラマでの知名度もあって、いきなりのヒットとなります。その『悲しいな』はタイトル通りの悲しい曲で、不良っぽいイメージから大きく離れないよう、暗い曲でのスタートとなったのでした。杉浦幸は明るく能天気なアイドルポップスという感じのキャラクターではなかったですね。そして勢いに乗ってリリースした2ndシングルが今回取り上げた『四月列車』になるのです。
『四月列車』も前作に引き続き、暗く悲しい印象の曲です。杉浦幸はこのあとも暗いイメージの曲ばかりをシングルに起用していて、6枚目シングル『花のように』(1987年6月)で初めて明るい曲を起用するまでは、イメージ戦略的な面があったのかどうか、とにかくアイドルらしいポップさとは無縁でした。どうしても「ヤヌスの鏡」のイメージがあったのでしょう、3枚目『六本木十時軍』(1986年7月)、4枚目『午前0時のI NEED YOU』(1986年11月)あたりは、まさにその延長上にある歌。夜遊びを続ける不良娘的なタイトルですよね。
ただ『四月列車』はそれとは違って、わりとしっとりとした歌で、歌詞はよくある上京もの。男目線で書かれた歌詞ですが、遠い街に旅立とうとしている君を見送るために、駅で過ごしている最後の時間を描いた切ない歌です。駅での別れというシチュエーションはドラマティックで詩にしやすいのでしょう、80年代にはよくこの手の駅を舞台にした上京失恋ソング(あるいは帰郷の場合もあり)が作られていました。近藤真彦『ブルージーンズ・メモリー』、河合その子『青いスタスィオン』、イルカ『なごり雪』、斉藤由貴『情熱』、山瀬まみ『セシリアBの片想い』、そして『四月列車』…。旅立つのが女性の場合、男性の場合とありますが、いずれにせよ、夢を追って都会へ旅立つ相手を見送るしかできない切なさが、どの曲からも伝わってきますし、絵が浮かびやすいのですよね。『四月列車』も秋元康が手掛けているので、そのあたりの表現は抜かりがありません。言葉数は少なめでしかもシンプルなのですが、それだからこそ若い二人の哀しみがストレートに響いてくるのですよね。
惜しむらくは、杉浦幸の歌唱力が不安定だったこと。聴かせる系の曲をきちんと歌で聴かせられないというのは、ハンディではあったかもしれません。それでもこの曲もオリコン最高7位を記録しました。ただ杉浦幸にとっては、最後のトップ10入りとなり、このあとはじり貧になっていきます。個人的には5枚目『-045-』(1987年2月)という曲も好きなのですが、この曲もしっとり系で、同じく歌唱力が…という感じではありました。ちなみに045は市外局番のことですね、横浜の。
その後杉浦幸は、メインストリートから少々それていき、パチンコとか麻雀とか、ギャンブル系のフィールドに向かったりもしていてようです。ただ今も時折、かつてのアイドル的な立場でテレビなどで見かけたりすることもありますし、ブログなども続けていて、健在ぶりが確認できるのはうれしいですね。